欧米と国連が主導する「中国への制裁」がまったく機能していない真の理由

 

では、米主導の別の制裁である【イラン】はどうでしょうか。

経済制裁の存在は、確かに国民をさらなる苦難に陥れています。

それは、重要な外貨獲得源であり財源でもある原油の輸出網を妨害されていることや、戦略的な物資の貿易も阻害されていることから起きています。

しかし、やせ我慢と非難する声もありますが、実際にイランの国際社会でのふるまいと行動を見ていて、本当に困り果てているでしょうか?

答えは、「まあね。でも報じられているほど困ってもないよ。」ということでしょう。

その理由は、“反米で結束している国々からのバックアップ”があるからです。

中国は、イランとの間に25年間にわたる戦略的パートナーシップを締結し、イラン産の原油を購入する権利を保障してもらう見返りに、エネルギー、ハイテク、戦略物資、インフラ整備などの供与に合意しています。

また外交的な舞台でも、中国はイラン核合意の当事国でありつつ、制裁の解除を後押しする代弁者として機能しています。実際にはイランが核兵器を保有することは望んでいませんが。

ロシアはどうでしょうか。

原油については自国で賄えるので直接的な利益はないでしょうが、ロシア産の武器の販売を行っていますし、イラン核合意下で禁じられているはずの“平和利用のための原子力技術”の供与もしっかりと水面下で行っています。

ロシアにとっては、旧ソ連崩壊後の失われた10年の間に、欧米に先を越された中東・北アフリカへの進出のための前線基地として、イランを取り込んでおくことは、地政学的な戦略に照らし合わせて必須条件と踏んでいるからこそ、イランを後方から様々な手で支援します。

後でイラクのケースでも触れますが、ロシアはエネルギーがらみでは、制裁破りのプロです。

トルコは、NATOの同盟国でありながら、アメリカや欧州との確執があることを活かし、イランと近づいて、経済的なつながりを深めるのみならず、欧米によって課されている経済制裁の穴を提供し、イランへの物資の流入と流出に貢献しています。

(ゆえに、トランプ政権時以上に、バイデン大統領を苛立たせているようです)

イランのケースを見ても、制裁を課しても、必ず誰かがバックアップして、制裁破りが発生します。

それは、前にも触れましたが、大国による政治・地政学的な意図やご都合主義によって形成されており、そこには国際社会を納得させるような大義名分がないことと、それぞれの利害が絡む状況ゆえに、実際に制裁措置が発効する段階では、いろいろな穴が存在して、骨抜きにされているからという背景があります。

それを私自身が身をもって感じたのが、かつてのイラクと旧ユーゴスラビアでしょう。

かつてのイラクについては、国連安保理による決議による制裁という位置づけで制裁が加えられていた半面、イラク国民の福祉向上のためと称してOil for Foodプログラムが、国連史上まれにみる規模の資金が投入されて実施されました。

しかし、Oil for Food Programの利益は国民には届かず、その資金は、プログラムにかかわった欧米企業と、それら関連企業からキックバックを得たサダム・フセインをはじめイラクの閣僚たち、そしてあろうことか、制裁を発効したはずのアメリカ、ロシア、フランス、イギリスといった中国を除く常任理事国の企業と、ドイツの企業などに、多くの利権が、市場価格よりも安価な原油の割り当てを、影でサダム・フセインから“友人の証”として与えられていたという“事実”がのちに明らかになりました。

つまり、本来の目的に反し、国民の苦しみは増す裏で、大国たちと独裁者は私腹を肥やすことになっていたというシステムが存在しました。

私はOil for Foodには直接的には関与しませんでしたが、国連でのちにイラク復興に携わる身としては、国連愛が覚めてしまう恥ずかしい事実です。

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