欧米と国連が主導する「中国への制裁」がまったく機能していない真の理由

 

『誰もが納得する(仕方ないと考える)大義名分がないから』という理由と、

『経済制裁が、いわゆる制裁を発する(declareする)ことができる大国の利害に影響された全く身勝手なものであることが分かったから』という理由も考えられるでしょう。

ここからは、すべてではありませんが、私が少なからずかかわった案件も含め、いくつかの例を挙げつつ、見てみたいと思います。

一つ目は、やはりニュースのネタに事欠かない米中対立に起因する対中制裁でしょう。

『中国に対して強い姿勢で当たることは、国内の支持を広く集める材料になる』と、政権内外の対中強硬派にアドバイスされたトランプ前大統領は、『際限なく伸び行く中国の経済力と領土拡大への飽くなき探求は、遠からずアメリカの国家安全保障の脅威になる』と宣言し、『中国の経済的な拡大と世界市場へのpenetration(浸透)は、アメリカ経済の成長を脅かし、アメリカ人の職を奪うのだ』という、自らの経済的ステータスに危機を抱くアメリカ人層に分かりやすいメッセージになるとともに、回復の兆しが見えない資源・鉱業・エネルギー産業・農業などの昔ながらの産業からの多大な支持となりました。

それは対中関税措置として、一方的に宣言されました。

実際には、トランプ前大統領の独特のディールメイキングによって、本格発動には至りませんでしたが、アメリカ国内に中国脅威論のイメージを植え付けるには十分すぎるほどのインパクトはあったものと思われます。

まだトランプ政権が継続していた2020年夏に、中国が香港で国家安全維持法を施行し、一国二制度の約束を反故にしたことを受けて、それまで対中制裁に乗り気ではなかった、そして中国経済の魔力に憑りつかれていた欧州各国も、制裁に加わることとなりました。

メルケル首相への餞(はなむけ)か否かは知りませんが、昨年末に交わされた中国とEUの貿易協定は、アメリカにショックを与えましたが、そのドイツも含め、フランスもEUから離脱した英国も、『アジアシフト』と宣言して、暗に中国脅威論を唱え始めたのはまだ記憶に新しいかと思います。

その対中脅威論は、バイデン政権にも引き継がれ、アメリカの国際協調への復帰と欧州各国との関係修復への期待も込めて、米欧間の対中制裁措置における協力関係は、経済・安全保障・人権などの多様な分野に及び、そこに日本やインド、豪州も加わったクワッドに代表されるような『平和で開かれたインド太平洋地域』と名付けた対中包囲網の拡大へと導かれています。

私も何度も「台湾を舞台にして、南シナ海を舞台にして」米中間での武力衝突がおきるのではとお話ししてきましたが、実際に中国サイドが実際に武力衝突をさほど恐れてはいないことと、シナリオは多数練ってはいても実際の武力行使の大義名分がなく、また国際社会の支持も得づらい現状もあり、武力に裏打ちされているべきだと考えられる制裁措置は、有名無実化しているものと考えます。

それは、欧米や日本、豪州、インドを交えた対中包囲網は存在し、それぞれに中国の脅威への対抗の必要性を掲げていますが、その本気度はまちまちだと言わざるを得ません。

音頭を取っているはずのアメリカは、政権は、バイデン大統領が大事にする原理原則である人権の擁護と、留まることを知らない中国の軍事的な拡大と横暴な態度(核戦力の拡大と充実含む)を理由に強い調子で中国との対峙を演出しています。

しかし、経済界(企業)サイドは、中国脅威論を理解はしつつ、すでにグローバル経済体制下では、中国との結びつき(サプライチェーン)が出来上がっており、それを急速かつ劇的に変えることは大きなコストとなる可能性が高いとの認識から、本気で中国との対峙を望んではいません。

その証拠に、コロナ禍から復活してきたと言われる中国経済の状況を見て、金融やハイテク産業などは、政府からの申し入れにもかかわらず、中国への投資を拡大させており(ここ数日は、中国政府のIT業界などへの規制強化の噂から株価指数が大きく下がっていますが)、実際には、【制裁の穴(Sanction Hole)】を見事に作り出している状況だと言えます。

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