そしてもう一つ、旧ユーゴスラビア紛争時に、セルビア共和国に課せられた数々の制裁は、正直、バイアスに満ちた一方的な性格が強かったと言えます。
全ユーゴスラビアの共和国のリーダーの中で最も能力が高く、人望が高かったのがMilosevic氏でしたが、その能力への妬みなのか、それとも欧米の言うことを聞きそうにないという見込みからなのか、米英は、セルビア共和国と同程度に“悪かった”(蛮行を働いた)クロアチアを悲劇のヒロインに仕立て上げ、そのヒロインをいじめる役にミロセビッチ氏とセルビア共和国を設定して、制裁対象(武力行使含む)にしました。
ミロセビッチ大統領が主導して行った数々の蛮行は決して褒められたものではありませんが、彼と彼の国をスケープゴートに仕立て上げることで、紛争に幕引きを行い、その後できる【ユーゴスラビア】に欧米サイドの影響力を高めるという動きに出たという背景があり、残念ながら国連はその片棒を、無意識のうちに担がされたと言えます。
コソボをめぐる問題でもそうでしたが、セルビア共和国に対する制裁の発効は、やはり一方的なクレームにしか思えず、欧米が自国に対しては忌み嫌う内政干渉をあからさまに行ったケースだと認識できます。
これ以上は、ちょっと激しいことを言いそうなので、このあたりで止めておきますが。
そして、今、ミャンマー国軍を対象として、国際社会は制裁を課しています。
ピンポイントの制裁を数多く発効するという新しい手口に見えますが、これもまた“人権”“民主主義”を看板に掲げて、「ミャンマー国民の自由のために」と宣言して干渉する米・英に代表される欧米諸国です。
人権擁護は、今はやりのESG(これも欧州発のコンセプト)の大事な要素にカウントされることもあり、欧米企業は挙って国軍を非難し、投資を凍結したり、撤退を行ったりして制裁の動きに沿っています。
しかし、欧米諸国が“仲間で同調するだろう”と思っていた日本企業と政府は、曖昧な態度に終始し(アジアにおける対日感情を意識したとの説もあり)、欧米諸国からの非難の的になることもあります。
例えば、新疆ウイグル自治区と並び、ミャンマーでも衣服の生産を行うファーストリテイリングや、ミャンマーで工業団地を造り、大きな勢力となってきた日本企業軍団は、自らの経営判断に委ねられた動きを取っています。
個人的には、こちらの方がより自由主義経済的な姿勢に思えますが、どうでしょうか。
最後に、ちょっと乱暴なことを言いますが、制裁措置が発効される際、その提案主はほぼ決まってアメリカと欧州各国であることにお気づきでしょうか?
同じ安全保障理事会常任理事国である中国とロシア発の制裁はあまりお目にかかったことがありません。
これがどういうことなのか、あえて申し上げませんが、こういった現実もまた、国連そして国連安全保障理事会の機能不全を物語っているのではないかと考えています。
制裁措置は、国家が他国、そして国際社会全体に対して不条理な行動を取ることを自制させるためのきっかけとして計画されたはずですが、実際には、大国と言われる国々(これまでは欧米諸国)が、自らの国益にそぐわない相手に対して課す一方的な手段として用いられているような気がしてなりません。
まあ、ロシアが旧ソ連諸国に対してかけている圧力や、中国が一帯一路政策の裏で、支援の見返りとして要求しているらしい外交的なサポートと親中体制の確約というのも、形を変えた一種の“制裁措置”とも言えるような気もしますが。
ちょっと広く、かつ激しく論じてみました。
いろいろとご意見もあるかと思いますが、皆さん、どうお考えになりますか?
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