無神経なロシアに日本が示し続けるべき、ソ連「スパイ事件」の違法性

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長崎に原爆が投下された日であり、ソ連が日ソ不可侵条約を一方的に破って日本への侵攻を開始した日である8月9日、ロシアの情報機関が「日本がソ連で破壊工作を準備していた」とする機密文書を開示しました。自らの不法行為を正当化する動きの一つに過ぎませんが、こうした地道な主張こそ日本政府が国際社会に向けて取り続けなければならない態度と伝えるのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんは今回、ソ連による諜報活動として「ゾルゲ事件」を取り上げ、忘れていないと示し続けることが重要と訴えています。

ロシアよ、情報戦はお互い様だ

東京オリンピックが終わり、祭りのあとの寂しさが漂っていますが、日本にとっては広島と長崎の原爆記念日、終戦記念日と続く、戦争と平和を考える重要な時期でもあります。そういう日本の神経を逆なでするような動きをした国があります。ロシアです。

「ロシア通信によると、ロシアの情報機関、連邦保安局(FSB)は、第2次世界大戦末期にソ連が対日参戦してから9日で76年となったのに合わせ、『日本がソ連で破壊工作を準備していた』とする機密文書を初めて開示した。

 

ソ連は1945年8月、日ソ中立条約を一方的に破って対日参戦し、日本のポツダム宣言受諾後に北方4島を占領した。文書の開示で、対日参戦と北方領土の不法占拠を正当化する狙いがあるとみられる。

 

開示されたのは、FSBの前身であるソ連国家保安委員会(KGB)が保管していた複数の文書で、ロシア通信が内容を報じた。

 

日ソ中立条約を締結後の43年7月に日本の関東軍が作成したとする資料に、ソ連領内の鉄道や飛行場、通信回線の破壊を想定した訓練に関する記述があったと主張している」(8月10日付読売新聞)

戦後76年も経ったのに、国際世論を動かしていささかでもロシアに違法行為を認めさせることができていない日本は、世界から外交的能力について疑問を持たれていることは言うまでもありません。

しかし、上記のFSBの動きについて言うなら、1941年4月に日ソ中立条約が締結される前からソ連が日本で諜報活動を行ったゾルゲ事件のことを持ち出さない訳にはいきません。

ゾルゲ事件とは対米戦争突入直前の日本を震撼させたソ連軍情報部員リヒャルト・ゾルゲらによるスパイ事件です。ドイツの新聞の特派員として在日ドイツ大使館と関係を結んだゾルゲは、近衛文麿首相のブレーンで南満州鉄道嘱託だった尾崎秀実らの協力を得て、日本の南進政策決定の情報などをソ連に伝え、ソ連は日本軍に背後を突かれる心配なくドイツとの戦争に兵力を集中することができるようになりました。ゾルゲは駐日ドイツ大使オイゲン・オットにも食い込んでおり、ドイツ軍のソ連侵攻の日時もそこからもたらされたものです。

ゾルゲと尾崎が1941年10月に治安維持法や軍機保護法などの違反容疑で逮捕されたほか、検挙者は30人を超えました。2人はロシア革命記念日の1944年11月7日に巣鴨拘置所で処刑されました。ゾルゲの墓は多磨霊園にあり、戦後も毎年11月7日にはソ連とロシアの大使館から大使や制服姿の駐在武官が墓参しています。

今回のFSBの文書開示に対しては、日本政府はその事実と墓参の画像などを公表し、反論の形を取らなければなりません。負け犬の遠吠えにならないよう、しかしソ連とロシアがしたことは決して忘れないという毅然たる姿勢を示し続けることが求められています。外交にはこうした小さな積み重ねが重要なのです。(小川和久)

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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