アフガン撤退が炙り出した「米国は正義の味方」時代の完全なる終焉

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全世界に衝撃を与えた、逃げるようにアフガニスタンから撤退する米軍の姿。それはまた、米中対立の新たなステージの到来を告げる象徴的なシーンでもあったようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、アフガンを始めミャンマーやエチオピアなど世界各地で展開される、欧米vs中ロの代理戦争の構図を詳細に解説。さらにそこから見て取れる、「アメリカの姿勢の変化」が何を示しているのかについても考察しています。

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米中対立の“新たな”段階? 地域紛争が変える世界の秩序とパワーバランス

「この20年間、我々はいったい何をしてきたのだろうか?」

今秋開催された通称Global Crisis Groupの会合中、アフガニスタンのタリバンによる暫定政府を率いる閣僚の名簿が発表された際、参加者たちが、その際行っていた議論を止めて、口々につぶやいたのがこの言葉です。

圧倒的な武力によってアルカイダを追放し、それを匿っていたと非難されたタリバン勢力も追放したアメリカとその仲間たち。その後、ハーミド・カルザイ氏を大統領に就けて、欧米型の自由民主主義を浸透させようという試みは、見事にタリバンにより打ち砕かれました。

カブール陥落直前に、カタールでタリバン幹部がアメリカ政府特使に約束した【国内融和】はいとも簡単に反故にされ、アフガニスタンは20年前の姿に戻ったのではないかと思われる状況になりました。

20年間の間に根付くかと思われた女性の社会進出も阻まれ、ポップカルチャーの愛好も禁止。そして厳格なイスラム法の下に統治をおこない、各州の有力者による支配体系という、かつての姿に戻ったとの印象です。

とはいえ、伝えられるところでは、かつてのタリバン政権下でも隠れて学校に通う少女たちを意図的に見逃し、目立たない限りは罰しないという側面もあったようですが、表面的には人権を認めない厳格な統治を実行していました。その厳格な統治がまた戻ってきたようです。

8月15日のカブール国際空港からアメリカ軍の飛行機が飛び立つ際には、まるで1975年のサイゴン陥落のようだと例えられましたし、私も例えましたが、8月31日の米軍の完全撤退の姿を見て感じたのは、ベトナム戦争での敗北よりは、『ブラックホーク・ダウン』で描かれたソマリア・モガディシュでの失敗のように、かき回すだけかき回して、最後は成すすべなく逃げ出した悲劇に似ているかもしれません。

誰が味方で誰が敵かわからない部族間の紛争に巻き込まれ、大国が抜け出せない泥沼にはまり、完全なる失敗を犯した例と言えるでしょう。

アメリカと欧米の自由主義社会は、多くの人的被害と国際的な評判を失うという、ネガティブな結果のみを残したという厳しい評価がなされています。

それを取り戻そうと、G7各国のみならず、欧米諸国は挙って外交的手段でのアフガニスタン情勢への介入を試み、女性の権利侵害などを懸念事項に挙げて、タリバンに人権尊重を訴えかけていますが、タリバンは聞く耳を持たないようです。

欧米諸国などが訴える内容、そして国連事務総長が表明する懸念は、すべて私も考えを同じくするものではあるのですが、同時に妙な違和感を覚えるようになりました。

「いつまで欧米諸国は他国に対して、自分たちが考える“あるべき姿”を押し付けようとするのか?それも何の権利があってそうするのだろうか?」と。

女性の社会進出の権利は認められるべきですし、子供たちが安心して学べる環境を得る権利も当然の権利でしょう。そしてそれぞれが自らの信条に基づいて選択し、表現する権利も基本的な権利です。

しかし、それを大国が挙って、援助の差し止めなどを盾に、他国に押し付けていいものでもないと思うのです。

厳密にいえば、まだ欧米諸国も、日本も、タリバン政権による新生アフガニスタンを承認していませんので“他国”ではないかもしれませんが、それぞれの国が忌み嫌う内政干渉を、完全なる失敗を犯した後でもまだ平然と行っているように見えるのです。

国家予算の7割を占める海外からの援助を左右する勢力からの圧力ではありますが、それをタリバン勢力は意に介していないように見える背後には中国とロシアの存在があります。

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