アフガン撤退が炙り出した「米国は正義の味方」時代の完全なる終焉

 

世界銀行やIMFが支援を一時凍結し、欧米諸国が支援を見合わせる中、その穴を埋めるかのように中国とロシアがタリバン政権に手を指し伸ばしています。

タリバンの取り組みを財政的にも外交的にもサポートする中国の存在は、欧米諸国が出ていった後のアフガニスタンと中央アジアにおいて大きくなる一方です。

またかつてアフガニスタンの底なし沼にはまって敗北を喫したロシア(旧ソ連)も、自らの勢力圏の保全のためにタリバンのサポートを行っています。

以前にもお話ししたように、中ロが築こうとしている国家資本主義体制のグループが今、中央アジアに成立しようとしています。その核に存在するのが新生アフガニスタンというわけです。

【関連】すべては米国の「お芝居」か。アフガン首都陥落と自爆テロに残る“疑念”

ここに新たな米中対立、新冷戦の特徴を見ることが出来るかもしれません。

アメリカは軍を撤退させて20年にわたるpost-9/11に区切りをつけたように見えますが、代わりに外交的なコミットメントと、人権問題という原理原則を押し付けて、影響力を維持したいと考えています。

しかし、それを直接的にアメリカが行うのではなく、間にカタールを挟み、間接的なコミットメントを行うという【一歩引いた形での影響力の行使】というスタイルになっています。

その一例が、支援と経済の窓口であるカブール国際空港の管理をカタールとトルコに行わせようとする動きです。ブリンケン国務長官とオースティン国防長官を同時にカタールに派遣し、カタールの役割をクローズアップして、アフガニスタンと中央アジアにおける勢力の維持と拡大を狙っていると考えられます。

代わりにアメリカ政府はカタールには中東各国との融和を後押しするという見返りを与え、再び中東地域における外交巧者という地域を回復させるように働きかけています。

そして、すでにロシアとの緊張関係を作り出しつつ、ナゴルノカラバフ紛争を機に中央アジアにおける勢力拡大を図るトルコを巻き込むことで、影響力を維持しようとたくらんでいます。

しかし、ここで忘れてはならないのは、トルコなどの支持を得るために、予てより批判してきたはずの人権侵害の問題には目をつぶっているという、人権問題対応におけるダブルスタンダードをここでも行っている点です。

それが分かっているのか、タリバンはトルコによる申し出もはねつけて、やっと勝ち取った完全なる独立に酔いしれているように思われます。

しかし、現実に沿ってみると非常に無理があるような気がしますが、それを可能にしているのが、内政には干渉しないがビジネスは行い、また外交的な相互サポートは行う主義の中国の後ろ盾です。

新生アフガニスタンが存続するための財政的・外交的なサポートを中国が、同じく欧米の影響力を排除したいロシアと組んで、タリバン政権に与え、一日も早く安定軌道に乗せることで、テロが中ロに及ぶことを徹底的に排除する狙いをもっています。

中国とアフガニスタンの国境線は、実は新疆ウイグル自治区にあり、その長さは70キロメートルほどになりますが、アフガニスタンの混乱に乗じ、今、ISISやアルカイダを始めとする過激派勢力が拡大していると言われています。

その中に、新疆ウイグル自治区出身で、東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)の分離独立を望むETIM(東トルキスタン・イスラム運動)も存在します。ETIMが混乱に乗じて国境線を超えて新疆ウイグル自治区に入り、現在中国政府が国際的な非難にさらされながら行っている“中国人化教育”を阻止し、武装闘争を引き起こすことを非常に気にしています。

多少の無理はあることを承知しつつ、中国政府はETIM他の中国への流入を止めることを絶対的な条件としてタリバンに突き付け、見返りに経済的・外交的な支援を行うという図式を持っています。

それはロシアも同じでしょう。北オセチアの問題、ウクライナの問題、最近は下火になったと言われつつも常に火種がくすぶるチェチェン共和国での緊張を刺激するような事態は絶対に避けるという条件下で、アフガニスタンのタリバンを助けているようです。

米中ロはここでも衝突するのですが、直接的な対峙はせずに、いわば代理戦争を展開しつつ、新国際秩序の下での支配権争いを繰り広げているわけです。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

print
いま読まれてます

  • アフガン撤退が炙り出した「米国は正義の味方」時代の完全なる終焉
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け