これ、同じようなことがほかの地域・国でも起きています。
一つは2月1日に国軍によるクーデターにより10年間にわたった民主化運動が頓挫したミャンマー情勢でしょう。
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本件は欧米諸国から激しい非難を受け、人権侵害などを理由に、海外からの投資の凍結や引き揚げが行われましたが、その穴を埋めに来たのが、中国とロシアでしたよね。
事態の一日も早い沈静化を願いつつも、国軍を非難することなく、逆に支援し、しっかりとマーケットの拡大と資源へのアクセス、そして親中勢力の獲得という見返りを得ています。
ロシアについては、武器の販売先をしっかりと確保しています。
原理原則で支援を拒まれた国は、中ロに救われる形で存続するという図式の出来上がりです。
そして、最近、このコーナーでも触れたエチオピア情勢もよく似た特徴が見えてきます。
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昨年11月4日以降、北部ティグレ州を発端に拡大してきている国内の紛争に対し、政府軍・TPLF双方による人権侵害と拷問・虐殺の疑いを指摘し、国際舞台でやり玉に挙げるのが欧米的な手法になっています。
それに対し、一帯一路政策のアフリカにおける主要拠点と位置付けるエチオピアを確実に親中に引き付けておくべく、国際的な非難が高まる中、中国はアビィ政権に対するインフラ支援をやめず、農業・エネルギー支援も拡大しています。そうして、欧米勢力をエチオピアから追い出そうとの方向にアビィ政権を向けようとしています。
しかし、中国のやり方は面白く、もう一つの当事者であるTPLFとも長くパイプを持っており、アビィ政権とTPLF側どちらが勝ったとしても、影響力は維持できる仕組みを構築しています。
エチオピアは、中国にとってはHorn of Africaにおける経済的なハブとしての位置づけがあり、アメリカにとっては、中東アフリカ地域におけるGlobal War on Terrorismのハブという位置づけのため、ここでも直接的な抗争には至っていませんが、ちゃんと対立の最前線となっています。
これらの例を見て感じることは、アメリカの姿勢が、今までに比べて引き気味に見えることでしょうか。
中国とは、台湾・南シナ海では直接的な対峙を行っていますが、他の地域においては、これまでのように自ら出て行って対峙するのではなく、同盟国を盾に使った間接的なコミットメントにシフトしてきているように思います。
これは何を指すのでしょうか?最近よく言われる【世界の警察官】としての役割の終焉でしょうか。今でも世界7つの海に軍港を持ち、プレゼンスを持つのはアメリカのみですが、徐々にそのグリップも弱まってきているように見受けられます。
アフガニスタンから撤退し、近くイラクからも撤退し、欧州に駐留する軍も縮小するという動きで、米軍の国際的なプレゼンスの変更とリバランスが行われていますが、唯一増派を行っているのは、中国と対峙するアジアフロントです。
中東、アフリカ、欧州でのアメリカのプレゼンスを欧州の同盟国がカバーできるような体制ができるのであればまだよいのですが、トランプ政権下でクローズアップされたNATO体制の結束の乱れゆえに、アメリカの軍事力が割かれ、世界中で起こる紛争に対応できなくなってきているという現実があります。
それはまた第2次世界大戦後、アメリカが持ち続けた「我々は世界にとっての正義の味方でいなくてはならない」という信念に行動が伴わなくなってきている限界も示しているように思えます。
そしてそれが露呈したのが、カブール陥落で終焉を迎えた“アメリカのアフガニスタンでの実験”なのでしょう。
今後、中ロの支援があっても苦難が予想されるタリバン政権ですが、今回の一連の混乱と成すすべもなく逃げ出すしかなかったアメリカの姿は、混乱の国際秩序の姿を根底から変えるきっかけになったのかもしれません。
いろいろな話をしてしまいましたが、皆さんはどうお考えになりますか?
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