「敵基地攻撃」を叫ぶ日本の政治家が知らぬ“ミサイル発射阻止”のリアル

 

論文「対戦力戦略の新時代」では、レーダー偵察衛星、非ステルス無人偵察機、ステルス無人偵察機の3種類の監視手段を検討している。

今世紀の偵察衛星の合成開口レーダーは、移動目標を探知して速度を測定することができる。リーバー博士とプレス博士は、北朝鮮からの側方距離1,500キロ以内の衛星は1日2.5回、北朝鮮の道路の平均90%を監視できると計算した。

利用可能なレーダー偵察衛星の数が多く、頻繁に北朝鮮を通過するほど、監視能力が高く、ミサイルの移動は制約される。2017年初めに米国が保有していた6基は1日15回、91分おきに北朝鮮を通過する。ドイツ5基、イタリア4基、日本3基、イスラエル2基の衛星を加えた20基なら、1日50回、24分おきに通過する。

グローバルホークのような非ステルス無人偵察機は、北朝鮮から80キロ以上の距離を保ち、対地レーダーの有効範囲が240キロなら、西朝鮮湾、韓国、東朝鮮湾、咸鏡北道東方沖に合計4機を滞空させて、北朝鮮の道路の54%を監視できるという。

RQ-170/180のようなステルス無人偵察機については、リーバー博士とプレス博士は、レーダーの有効範囲を50キロに制限して計算している。それでも江原道(北朝鮮)、平安北道、蓋馬高原、咸鏡北道の4か所に進出させると、非ステルス無人偵察機4機と合わせた監視範囲は北朝鮮の道路の97%に上る。ただし、有事の継続的な監視に必要なステルス無人偵察機は最低12機、北朝鮮による撃墜の可能性を考えればさらに多いという。

リーバー博士とプレス博士は、移動式ミサイルによる核報復能力が、監視能力の進歩によって失われる可能性を指摘する目的で、北朝鮮という小国の例を検討した。この例でも、約20基のレーダー偵察衛星と約20機のステルス無人偵察機が必要なことが明らかになった。

中国は北朝鮮よりずっと広大で、移動式ミサイルの配備数も多く、防空システムは強力である。中国が移動式地対地ミサイルを増強し、日米などがそれを宇宙・空中から監視し地上で撃破しようとする競争は、中国にとって有利で、監視・攻撃する側に不利である。(静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)

(参考文献)
Keir A. Lieber and Daryl G. Press, “The New Era of Counterforce: Technological Change and the Future of Nuclear Deterrence,” International Security, Vol. 41, No. 4 (Spring 2017), pp. 9-49.(対戦力戦略の新時代──技術変化と核抑止の将来)

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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