「敵基地攻撃」を叫ぶ日本の政治家が知らぬ“ミサイル発射阻止”のリアル

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昨年夏の陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」導入断念後ににわかに脚光を浴び、自民党総裁選でも高市、岸田両候補が保有の必要性に言及する「敵基地攻撃」能力。その是非を巡っては各方面からさまざまな声が上がっているのが現状ですが、専門家はどう見るのでしょうか。軍事アナリストの小川和久さんが主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』では今回、静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授の西恭之さんが、米軍が北朝鮮のミサイルを発射前に攻撃するために必要とする監視能力について書かれた論文を紹介。その上で、北より遥かに広大でより強力な防空システムを持つ中国に対して「発射前撃破」能力を持たんとすることは、監視・攻撃する側に不利と結論づけています。

米国は発射前のミサイルを攻撃できる

自民党総裁選に立候補した岸田文雄元外相と高市早苗元総務相は、日本に対するミサイル攻撃が始まっている状況において、さらなる攻撃を阻止するため、相手がまだ発射していないミサイルを攻撃する能力が日本に必要だと主張している。

北朝鮮や中国の地対地ミサイルに対する攻撃については、議論を整理すべき点が山積している。そもそも日本が他国のミサイルを攻撃するとき、日本しか攻撃されていないのか、それとも周辺の米軍、韓国または台湾も攻撃されて反撃を開始しているのか。各国と平時から調整していなければ、日本の反撃が友軍の行動を妨げたり、友軍を誤爆したりするおそれが強い。

また、北朝鮮や中国の地対地ミサイルが移動式であることが、発射を防ぐ作戦に与える影響が理解されていないため、いまだに「敵基地攻撃」と呼ばれている。

移動式ミサイルの発射を防ぐためには、固定配備されたミサイルと比べて桁違いに大がかりな監視能力が必要となる。本稿では、北朝鮮の移動式地対地ミサイルに対して必要な監視能力を概算した論文を紹介する。

キア・リーバー・ジョージタウン大学准教授とダリル・プレス・ダートマス大学准教授の論文「対戦力戦略の新時代」は、米国の学術誌『インターナショナル・セキュリティ』2017年春号に掲載された。対戦力戦略とは相手の核兵器を攻撃して核報復能力を奪う戦略だが、従来は不可能だった。弾道ミサイルの精度が低く、移動式ミサイルに対する監視能力も低かったからだ。ところが、この論文によると、精密誘導兵器とリモートセンシング(人工衛星や航空機からの地表付近の観測)の技術が進歩した結果、米国は他国の発射前の弾道ミサイルを小型核兵器または通常兵器で攻撃できるようになっているという。

移動式ミサイルの発射を防ぐ作戦が、リモートセンシング技術の進歩によって可能になった例として、リーバー博士とプレス博士は北朝鮮を分析している。ミサイルが平時はシェルターに格納され、有事は道路上に分散するなら、発射を防ぐ作戦におけるリモートセンシングの役割は三つある。

  1. 平時の「戦場情報準備」として、核・ミサイル施設を発見し、移動式発射機が有事に通る道路、部隊の習慣的行動、指揮・通信網を割り出す。
  2. 移動式発射機かもしれない物体を「探知」するため、広域を低解像度センサーで監視する。
  3. 探知された物体に高解像度センサーを向けて「識別」し、正確な位置情報を得る。
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