漠然とでも「その日のシミュレーション」をすること
ここでのポイントは、おそらく二つあります。
一つは、漠然とでも「その日のシミュレーション」を行うこと。時間や分単位で細かく考える必要はありません。午前中はこう動き、午後の早い段階はこう動き、夕方にはこう動いて、夜にはこう動く、といったことをイメージすることです。言い換えれば、なんとなく一日を始めないことです。往々にして、なんとなく一日を始めてしまうと、なんとなく一日が終わります。
もちろん、その日のシミュレーションをしたところで、その通りに進むとは限りません。まったく限りません。そもそも、その通りに進むなら、それはシミュレーションではなく、予知や予言などの奇跡に属する行為になってしまいます。さすがにそれを求めるのは、人の身には重すぎる願いでしょう。
シミュレーションするのは、あくまで「枠」を設定するためです。一日を「24時間の大きな箱」と考えるのではなく、起きてから寝るまでの16時間(あるいはもっと短い時間)だと捉え、さらにその箱に細かい仕切りを入れることで、時間の感覚を研ぎ澄ませます。といってもそれは、レイピアのような鋭利さではなく、削りたてのエンピツ程度の鋭利さにすぎません。
これがあるだけでも、以降の行動選択の基準が変わります。時間がたくさんあると捉えてしまうと、どうしてもゆるく引き延ばして使ってしまうのが人間の傾向なので(もちろん個人差はあります)、わずかでもシミュレーションしておくことで、その感覚を補正するわけです。
朝一にメモるのは「いきなりタスクにしない」ため
もう一つ、朝一にその日のことについて書き出すことの効能は、「いきなりタスクにしない」点にあります。これは極めて重要な点です。
たとえば、メールを読んでいて何か実行すべき案件が発見されたとしましょう。するとすぐさまそれを「タスク」にしたくなります。特に、「今日のタスク」にしたくなります。なんなら直後に取りかかりたくなります。でも、それって本当に今日やるべきタスクなのでしょうか。実は明日でもOKかもしれません。明後日でもOKかもしれません。よくよく考えれば、別に自分でやらなくてもよい場合すらあります。
同じことは、「後でスーパーに行きたいな」と思ったときにも言えます。別段今日スーパーに行く必要はないかもしれません。何か別の買い物と合わせて、その日に行けばいいかもしれません。だから、思いついた直後に、「タスク」にするのではなく、いったん「後でスーパーに行きたいな」とだけメモしておけばいいのです。
事実、自分の脳内で発生したのは、「後でスーパーに行きたいな」と思ったことだけであって、それがタスクであることはその時点では確定していません。しかし、ネットでよくある、
門番「貴様は誰だ?」
着想「タスクです」
門番「よし、通れ」
のような雰囲気で、即座にタスク化され、タスクリストに掲載されてしまうことがよくあります。このやり方をしていれば、あっという間にタスクリストはパンクしてしまうでしょう。
重要な点は、「~~しようと思った」ことと「~~すること」をタスクにすることは別である、ということです。だからこそ、いきなりタスクリストの作成に取りかかるのではなく、まず頭の中に思い浮かんだことをメモするところから、一日をスタートさせるわけです。これは、〈着想と処理を分ける〉という言い方ができるでしょう。
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