アベノミクスの大罪。「円安は国益」というインチキ金融政策3つのウソ

 

3番目のウソは、大きな副作用があるということです。本来のアベノミクスは、1番目の「円安誘導」に加えて、3番目の「構造改革」が伴っているはずでした。ところが、円安というのは、構造改革の追い風にはならないどころか、改革が遅れてもいいという「改革サボリの許容」をしてしまうのです。

日本発の企業が、世界の市場を制覇して多国籍化したとして、それが大きな成長であるのなら、それは悪いことではありません。ですが、その企業の本社が日本にあると、その業務は日本の法律や制度に縛られます。商慣習や、働き方にも縛られます。その中で、日本の悪しき習慣である、紙とハンコと日本語に縛られた事務作業だとか、中抜きベンダーとヘトヘトIT要員で構成される低レベルのITなどは、世界的に見て高コスト低パフォーマンスであり、改革の対象とされなくてはなりません。

ところが、円安になると、「ドル建ての世界連結決算」において、日本の「ご本社の事務コスト」はドルで見て圧縮されてしまいます。しかも、日本独特の賃金制度や派遣労働などで更にコストが圧縮されます。そこで「改革をしなくても、まあいいや」ということになります。これが円高であれば、そもそも日本に本社を置いておくかという厳しい判断も含めて、事務の生産性が問われるのですが、円安だと甘やかされるというわけです。

安倍政権は、要するに「現状維持的な」層が岩盤支持層だったということもありますが、そもそも円安と構造改革の相性は悪いのです。

では、事務仕事だけでなく、イノベーションはどうかというと、ここで起きているのは「特殊な空洞化」です。

経営学の教科書に出てくる、「良く言うと国際分業」、「悪く言うと空洞化」というのは、基本的にはある経済圏が先進国入りして人件費が高くなると、大量生産の拠点を人件費の安い地域に移して利益を確保するというのが原則です。これに加えて、市場の方が「自国の雇用を確保せよ」と言ってくる「うるさい」市場の場合は、そこで生産する必要が出てくるということがあります。

ですから、例えばトヨタの場合は、カローラのような廉価な製品はメキシコで安く作る方針ですし、一方でRAV4などの中ぐらいの価格で売れ筋の製品は「アメリカの国内産」として販売しています。そこまでは理解できます。

ところが、トヨタの場合は「R&D(研究開発)」やデザイン開発などの機能、また、現在トヨタが社運をかけて取り組んでいる自動運転などAI技術の研究開発についても、アメリカなど国外に流出させています。

私は、これを「日本型の空洞化」つまり、ビジネスの流れの「川下(かわしも)」ではなく、「上流」の部分を日本国外に出すという独特の行動と定義づけています。

どうして、AIの開発などを国外に出しているのかというと、日本国内のITに関する環境が劣悪だと言うこともありますが、こうした種類の人材のコストは国際市場で決定する中で、日本ではそうした高い給料が払えないからです。高度な人材は、年功序列制度に馴染まないと言うこともありますが、頑張って高い給料を用意しようとしても、円安になって国際水準より安く抑えられた日本の賃金体系には馴染みません。

ですから、そうした最先端の人材は国外に置いておいた方が「何かとうまくいく」ということになるわけです。つまり円安はイノベーションを阻害しているとも言えるのです。

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