アホな科学政策による必然。日本から「頭脳流出」が今後も続く訳

 

頭脳流出を止めるには、法律をいくら変えてもダメなのだ。研究者の給料や研究費や雑用に追われる時間を少なくするといった、待遇改善をすることだけが唯一の解決策なのである。2018年の大学部門の研究開発費は、日本は3.7兆円(OECD推計では2.1兆円)、アメリカ7.8兆円、中国4.3兆円、ドイツ2.6兆円、フランス1.5兆円、イギリス1.3兆円、韓国0.8兆円である。

ちなみに、2000年の大学部門の研究開発費を1としたときに、2018年のそれは、日本1.1、アメリカ2.5、ドイツ1.8、イギリス2.3、韓国4.5、中国19.0である。日本だけがほとんど増えていないことが分かる。21世紀に入ってから、基礎研究につぎ込む金を諸外国に比べケチっているわけだ。

もう一つ大きな問題は、総額は諸外国に比べてさほど見劣りしないのに、なぜ、インパクトのある論文の数が世界10位なのかという事だろう。金が有効に使われてなくて無駄金が多いってことだ。

2004年に国立大学が民営化されてから、運営費交付金を徐々に減らしたばかりでなく、選択と集中と称して、資金を見込みがある(と勝手に決めた)研究に集中的につぎ込み、役に立たない(とこれまた勝手に決めた)研究には全く資金を回さなくなった。地方の国立大学では、研究者が年間に使える研究費が20万円に満たないところも出てきたという。その結果起こったことは、世界レベルでの科学力の低下であることは、データが何よりも証明している。年間20万では、そもそも研究ができない。

アメリカも選択と集中に舵を切ったこともあったが、イノベーションを起こすためには、海のものとも山のものとも分からぬ研究にも、ある程度の資金を回す必要に気づき、資金の一部はバラマキに使っている。

mRNAワクチンの実用化のための基礎技術を開発した、ハンガリー出身の科学者カリコー・カリタンは、アメリカに渡った頃は、誰も注目しなかった研究を諦めることなく続けて、ワクチンの開発に結び付けた。途中資金が乏しくなって、窮したこともあったようだが、ビオンテック(ファイザーと共同でmRNAワクチンを開発したドイツの企業)に移ってから研究が花開き、現在はビオンテックの上級副社長であり、ノーベル賞候補の一人である。すごいイノベーションは主流から外れた研究から起こることが多く、選択と集中を強めれば強めるほど、画期的な研究成果は現れなくなる。

選択と集中の悪いところは、資金を貰うために、この研究がどんな役に立つかといった書類を山ほど書かされ、肝心の研究に回す時間が無くなることだ。実験には金が必要だが、新しいことを考えるには時間も必要なのだ。さらに日本の悪いところは、次から次に新しい改革を文科省から押し付けられて、その度に、膨大な書類作りしなければならないことだ。だから、改革をやればやるほど、雑用が増えて研究時間が無くなり、科学力が下がるわけだ。

(メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』2021年9月24日号より一部抜粋、続きはご登録の上、お楽しみください。初月無料です)

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