淘汰されつつあるニットアパレル。まだ「復活の道筋」はあるのか?

 

4.ニット指示書の共有

更に、このケースを一つの事例にして、新たなニットデザイナー育成プロジェクトを立ち上げるプロジェクトも提案したい。ニットデザイナーの育成は、ニッターの利益にも直結し、サスティナブルなビジネスにつながるからだ。

現在、ニットデザイナーという職業は絶滅危惧種である。ニットは奥深く、プロとして活動するには、キャリアが必要である。しかし、前述したように、ニットアパレルも淘汰され、ニット製品の多くが中国生産になった現在、国内でニットデザイナーを育成する仕組みは失われていると言えよう。

私は、ニット業界の発展を考えるならば、発想の転換が必要だと思っている。つまり、ニットデザイナーを一から育成するのではなく、ニット製品の発注の方法を共有するということだ。具体的に言えば、標準的な指示書、基本的な編み地の資料等をクラウド上に用意する。そして、会員制の組織を作り、会費を支払えば、資料等を自由にダウンロードできるようにする。

技術的なことをサポートすれば、ニットが分からない布帛のデザイナーであっても、ニット製品を発注できるようになるだろう。私は、ニットデザイナーという職種そのものも、依頼されたデザインの指示書を作成するのではなく、自分で作ったオリジナルの指図書を販売するというビジネスモデルに転換すべきではないか、と考えている。料理研究家がオリジナルのレシピを販売するように、ニットデザイナーもオリジナルのデザインを販売すればいいと思う。

ニッターにとっても、こうした資料を配布することは、自社の受注につながるプロモーションにもなる。したがって、自社で作成した編み地等も公開しても良いものは公開すべきである。同様に、編機メーカーにとっても、資料の配布は高度な製品を市場に提供することにつながる。

基本的なニットの発注方法が共有されれば、もっと簡単にニット製品を発注することができるようになり、消費者もニット製品に接する機会が増えるはずである。

編集後記「締めの都々逸」

「伸びて縮んで 楽々着れる しかもきれいで暖かい」

ニットには愛着があります。一時期は、ジャケットの代わりに常にニットを着ていました。特に、ポールスチュアートの手編みのセーターが好きでしたね。今では、高すぎて買えないけど、景気の良い時期もあったということです。

最近、良いニットに出会う機会が減りました。目につくのは、ユニクロのニットのようにベーシックなデザインばかり。ユニクロのニットが悪いというわけでもなく、特にスーパーファインメリノのシリーズは良いと思いますが、残念ながら紡毛のセーターは風合いが今一つです。安い糸を使っているのかな、目付も軽いな、という感じです。

さて、既にアパレルの仕事からは卒業したつもりでしたが、何となくニットに対する意欲が盛り上がっています。男のニットブランドを作ってみようかな、と思ったりしています。(坂口昌章)

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image by: Shutterstock.com

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