中国すら匙を投げる惨状。WHOテドロス氏「祖国」で止まぬ蛮行と悲劇

 

今回の首相自らがティグレイ紛争の前線に立ったというニュースは、それへの対応のアピールと、「TPLFとOLAがアジスアベバに侵攻し、エチオピアを乗っ取るつもりのようで、それを食い止めるためにやってきた」という宣伝というように捉えられています。

しかし、このニュースは、国際社会にとってはさらなるエチオピア離れを加速させているようです。

ティグレイ紛争における政府軍側のティグレイ人に対する人権侵害と、民族浄化の疑い、そして国際人道支援の妨害と、度重なる国連職員や人道支援活動のスタッフの拘束事件などの問題が明るみに出たのを機に、欧米諸国はエチオピア支援を止め、制裁を課す判断に出ています。

そしてついに、アメリカ政府を皮切りに、英国、フランス、ドイツ、オランダなどが自国民のエチオピアからの即時退避を大使館に指示し、それに続いて、国連も職員の国外への即時退避を命じるなど、国際社会との断絶が深まっています。

また、エチオピアはアジスアベバにアフリカ連合の本部を抱える重要国ですが、周辺国のみならず、アフリカ諸国も、エチオピアによる情勢の著しい悪化が自国に悪影響を与えることを嫌い、アビー首相に対して懸念を伝えるとともに、エチオピアで進む蛮行と悲劇を国際的に知らせるべく、アフリカ諸国の発案で、今年1月以降、Peace and Security in Africaというアジェンダを立てて、安全保障理事会での議論を継続させています。

この背景には、ティグレイ紛争の悪影響もありますが、現在、並行して進むルネッサンスダム問題(エチオピア・エジプト・スーダンの間の係争)への懸念もあり、アフリカ各国は“アフリカによる解決”を望みつつも、エチオピア政府に問題のハンドリング能力と平和的解決の意思がないと判断したこともあります。

安保理での議論では、エチオピア政府が副首相まで出して反論をする状況が続いていますが、11月に入って大きく変わったのが、これまで対エチオピア制裁に慎重姿勢を示すか反対して、エチオピアをかばってきた中国とロシアが、ついに我慢の限界を迎えたようで、制裁への反対をせず、制裁やむなしと棄権するケースが目立って来ました。

エチオピアといえば、中国にとっては東アフリカへの一帯一路政策の浸透のための重要拠点として、TPLF時代から重点的に経済進出し、インフラ整備をことごとく行い、かつ高度の経済成長を支援する目的で、港のある隣国ジブチとの間に鉄道と幹線道路を敷設してきました。その権益を犠牲にすることも覚悟して、今回、ついにエチオピア非難に回ったのは驚くべき反応です。

その主な理由は、これ以上のエチオピアに対する庇護は、自国が欧米諸国から非難される新疆ウイグル自治区における人権問題や香港問題などに飛び火しかねないとの中国政府の判断があったと言われています。

エチオピアは実際にはアメリカにとってもCIAのテロ対策の拠点(Black Site)を置くほど重要視しており、これまで貿易上の特恵待遇を与えて支持を取り付け、米中対立のアフリカの前線と見なしてきましたが、人権問題を重視するバイデン大統領の眼には、アビー首相が指示する人権蹂躙は許容しがたいものであり、ゆえにエチオピア切りを決行しました。そして中国も退いたことで、今、エチオピアは国際的な影響力の空白地帯になっています。

その機を逃さずと、これまで係争案件を数多く抱えてきた隣国スーダンが、クーデターと首相の拘束でかなり不安定化していた国内情勢を、首相の復帰という形で収束させるという荒業に出て、対エチオピア攻勢に乗り出しています。

その背後には、“スーダンによる治安回復のため”に特使を派遣していたアメリカ政府がおり、「スーダン国内に退避してきたティグレイ人に対する支援」の名目で、資金援助も拡大しています。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

print
いま読まれてます

  • 中国すら匙を投げる惨状。WHOテドロス氏「祖国」で止まぬ蛮行と悲劇
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け