オミクロン株の出現で「コロナ鎖国」が“できてしまう”日本の深刻度

 

自動車にしても、エレクトロニクスの関連にしても、あるいは食品加工などにしても、日本の多くの企業はすでに自国のマーケットが縮小する中で、日本だけを相手にしては生きていけない時代に突入しています。

自動車産業などは、産業トータルにおける日本ブランドの「国内販売比率」は15%前後まで落ちており、反対に85%は国外、つまり輸出か現地生産になっています。他の多くの産業もそうです。大雑把な統計としては、日本ブランドの企業が作り出す経済の「国内:国外」の比率は「1:3」だという数字もあるぐらいです。

そうなると、本来であれば毎日、毎週、多くの社員や取引先が、日本と世界各国を往復する必要が出てきます。例えば、重要な商談がある、技術指導をしなくてはならない、品質管理のためにはチェックが必要、市場調査も必要、販社や問屋との関係維持には幹部の訪問が必要…とにかく巨大なカネが動く以上は、人の行き来は必要なはずです。

ところが、今回はその人の流れを止めて「鎖国」ができてしまっているのです。さすが多国籍企業は進んでいて、何でもリモート会議で仕事が進む…という要素も確かにあるかもしれません。ですが、それだけでは「人の行き来が停止できている」ということの説明にはなりません。一部、ヘビーな出張の必要な人は、韓国の仁川を拠点にして動いていたという話も聞きますが、それも一部でしょう。

そうではないのです。問題は、もう出張者が行かなくても現地のオペレーションは回るようになっているということです。

つまり、基幹の技術も、製造のノウハウも、さらに言えば研究開発も、マーケティングも、全て現地のオペレーションで回るようになっているのです。とにかく総合的な空洞化が起きているのです。

普通の空洞化というのは、製造だけを人件費の低い国に移転する、とか、雇用確保にうるさい市場では現地生産に切り替えて憎まれないようにする、ついでに為替リスクも減らす、というようなものです。こうした空洞化であれば、世界中の企業がやっています。

ですが、日本企業の場合は最先端の研究開発や、経営判断を伴う部分まで、どんどん外に出して、現地のオペレーションを独立させています。その結果として、多くの企業の場合には、どんなに世界で稼いでも「日本のGDPへの寄与は部分的」ということになっています。

自動車の場合が典型で、北米で研究開発し、北米でデザインし、大きな部品は中国で組み立て、最終組み立ては北米、マーケティングも北米、ついでに儲かったカネは北米で再投資、という流れになっています。その場合に日本のGDPに寄与するのは、中国にネジとかを輸出している裾野の部品産業と、日本本社には多少のロイヤリティが入るだけです。

あとは、円安で株価が膨張することや、日本国内での「円建て業績」が「史上空前」になったりするだけで、日本のGDPには少ししか貢献しません。

仮に、事業や技術のノウハウが日本国内にあるのなら、どんなに現地生産していても、日本からの人的支援は必要です。ですから、どんなにパンデミックでも、事実上の国境閉鎖を行えば、大きなブーイングが出るし、日本経済のことを考えると、ここまで強い規制はできないハズです。ですが、それができてしまうということは、要するに日本の多国籍企業は究極の空洞化をしてしまっていることの証拠だと言えます。

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