西側と交渉決裂。ロシア「核」使用もあるウクライナ侵攻シナリオ

 

NATO側はミサイル配備規制については話し合う余地ありとしたものの、NATO不拡大要求に関してはやはり受け入れられないとの姿勢を示したためです。この方針は協議前の7日に行われたNATO外相会合で予め確認されていたものであり、驚くべきことではないとしても、やはり協議が決裂したことには変わりはありません。協議後、ストルテンベルク事務総長は、「ウクライナのNATO加盟拒否を認めることはない」とこの点をあらためて強調しました。

他方、ロシア側の交渉代表者を務めたグルシュコ外務次官(ロシアの役所には複数の次官がおり、そのうえに第一次官、さらにそのうえに大臣がいるという構造になっている)は、「ロシア側の提案の都合のいい部分だけを選ばれることは容認できない」として、NATO不拡大提案が受け入れられなかったことに不満を示しています。
NATO、ロシアに軍備巡る協議提案 ロシアは危険性警告 | ロイター

13日に行われたOSCE(欧州安全保障協力機構)との協議も同様の結果に終わっています。この点は『朝日新聞』に端的な要約があるので以下に抜粋してみましょう。

「ロシアの主な要求は三つ。1. NATO拡大を停止し、旧ソ連のウクライナ、ジョージアの加盟を認めない 2. NATOの東方拡大が決まった1997年以降、東欧に配備した部隊、兵器を撤去 3. ミサイル配備規制や軍事演習の制限──などだ。米国とNATOは「『開かれたNATO』の原則」を盾に拡大停止は「問題外」とし、兵器の撤去も拒否。軍縮や双方の透明性を確保する措置などについてだけ、協議の継続を提案した」(1月15日付朝日新聞

1週間の間に集中的な協議の帰結は、どれもひとつの方向性を示しています。つまり、軍備管理や信頼醸成については話し合うことができるが、NATO不拡大に関するロシアの要求は認められないというのが西側の立場である、ということです。

そして、前掲の第158号で述べたとおり、これこそがロシアの要求の本丸であることを考えるならば、一連の協議は決裂に終わったと見てよいでしょう。たしかにリャプコフ次官は今回の協議に関して「アメリカ側は、ロシアの提案を真剣に深く考えている印象を受けた」と述べているものの、その結果は前述のとおりです。

さらにいえば、ロシアがウクライナ国境付近に部隊を集結させてはじめて「NATO東方不拡大」というアジェンダを「真剣に深く考え」るようになったのだとすれば、ロシアは軍事的威圧の効果に関して一種の手応えさえ感じているのかもしれません。

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