西側と交渉決裂。ロシア「核」使用もあるウクライナ侵攻シナリオ

 

ロシア軍戦略核部隊大演習と「エスカレーション抑止」

もうひとつ気になるのは、毎年秋に実施される戦略核部隊大演習が昨年は実施されなかったことです。ただ、1月3日に報じられた未確認情報によると、ロシアはこれを今年初頭に延期して実施する方針であるとされており、近いうちに弾道ミサイルの発射訓練を含む大規模演習が始まる可能性はあるでしょう。
Источник: учения стратегических ядерных сил России пройдут в начале 2022 года – Армия и ОПК – ТАСС

問題は、これが単なる演習であるのかどうかです。といっても、ロシアが西側に対して核攻撃を行うという話ではなく、ウクライナへの侵攻と同時に戦略核部隊演習を行うならば、西側に対する強力な牽制球としての機能が期待できるだろうということです。

ロシアでは1990年代から、紛争参加国を限定するために(つまり米国などの有力な大国の介入を阻止するために)核兵器を用いるという考えが生まれており、米国ではこれがロシアによる限定・予防的核使用(いわゆるエスカレーション抑止)につながるのではないかという懸念が持たれてきました。

たとえば、ロシアが旧ソ連の小国に対して行った軍事介入にNATOが介入してきそうだとなった段階で、無人地帯に「デモンストレーション」的に限定核攻撃を行うとか、それでも介入を諦めない場合には重要な目標を少数選んで「威嚇」的な攻撃を行うという考え方です。

1999年にロシア軍部内誌『軍事思想』に掲載されたレフシン、ネジェーリン、ソスノフスキーの三軍人による連名論文は、この種の核使用を6つに類型化したものとして西側でも度々引用されてきました(В. И. Левшин, А. В. Неделин, М. Е. Сосновский, “О применении ядерного оружия для деэскалации военных действий,” Военная мысль, No. 3 (1999), pp.34-47.)。

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