西側と交渉決裂。ロシア「核」使用もあるウクライナ侵攻シナリオ

 

続く部隊集結

この間にも、ロシアはウクライナ国境周辺への軍事力展開を着々と続けていました。昨年11月時点において、ウクライナ周辺に集結しているロシア軍は39個大隊戦術グループ(BTG)、兵力にして11万4000人であるとウクライナ国防省は見積もっていましたが、現在ではその数はさらに増加していると見られます。
Ukraine Demands Beefed-Up U.S. Military Response to Russian Buildup | foreignpolicy.com

各種の調査報道によると、現在、ロシア軍はウクライナ国境にもともと展開している南部軍管区の部隊だけでなく、西部軍管区の第20諸兵科連合軍及び第1戦車軍の主力をブリャンスク、ヴォロネジ、ボグチャルに至るウクライナ北方地域に戦略展開させていると見られます。

また、サマラ付近には中央軍管区から展開してきた第41諸兵科連合軍の主力が居座っているほか、年明け以降には東部軍管区からも部隊がウクライナ付近への鉄道機動を開始していると思しき映像がインターネット上で多数見られるようになりました。
Техника Восточного военного округа едет на Запад | by CIT | Jan, 2022 | Medium

今月15日に海軍分析センター(CNA)のマイケル・コフマンとドミトリー・ゴレンブルグが『ワシントン・ポスト』に寄せた記事によると、以上を合計すると60個BTGに達するとされています(ただし、両名は、60個BTGの兵力は4万8000人程度、支援部隊を含めても8万5000人くらいであろうとしている)。
Russia has been shifting troops to the Ukraine border for months. – The Washington Post

先週からはヘリ部隊の空中機動も目撃されており、あとは航空宇宙軍の戦術航空機が周辺の飛行場に展開すれば侵攻作戦の準備はひとまず整ったということになるでしょう。これについては昨年12月3日の『ワシントン・ポスト』が100個BTG、17万5000人で進行を開始するという米国情報機関の見通しを伝えており、このとおりであれば現在は進行兵力の6割が揃った状態ということになるでしょう。
Russia planning massive military offensive against Ukraine involving 175,000 troops, U.S. intelligence warns – The Washington Post

断っておくならば、ロシアが本当にウクライナに侵攻するのかどうかはまだ不明です。おそらくこれはプーチン大統領とほんの数人の側近だけが決定する問題であって、多分、この点について自信を持って答えられる人間はモスクワにもそう多くはいないはずです。

ただ、外形的に観察できる範囲で言えば、ロシアはこれまでで最大規模の兵力をウクライナ周辺に集結させており、政治指導部の決断さえあれば相当大規模な軍事作戦を開始できることは確実であると思われます。

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