ただ、ロシアにおける議論の動向を詳細に分析したマイケル・コフマンらの研究やディマ・アダムスキーの研究を見るに、いくら「デモンストレーション」であっても核兵器を実際に使用することはあまりにリスキーであるとロシア軍でも見られているようです。
- Anya Fink and Michael Kofman, Russian Strategy for Escalation Management: Key Debates and Players in Military Thought (Washington D.C.: CNA Corporation, 2020).
- Michael Kofman, Anya Fink, Jeffrey Edmonds, Russian Strategy for Escalation Management: Evolution of Key Concepts (Washington D. C.: CNA Corporation, 2020).
- Dmitry (Dima) Adamsky, “Nuclear Incoherence: Deterrence Theory and Non- Strategic Nuclear Weapons in Russia,” Journal of Strategic Studies, Vol. 37, No. 1 (2013), pp. 91-134.
したがって、現在のロシアの軍事思想においては「デモンストレーション」や「威嚇」によるエスカレーション抑止は排除されないものの、その前段階において訓練を装った核威圧も含まれるようになっていると見られるわけですが、これは現在の状況とどうにも不気味に符合しています。
つまり、ウクライナへの軍事介入の前、あるいは最中に戦略核部隊大演習を行なって、西側に対しては「手出しするなよ」というメッセージを発するのではないかということです。これはこれで非常に危険な振る舞いではあるにせよ、実際の限定核攻撃を行うのに比べれば遥かに低リスクで、しかも確実にロシアのメッセージを伝達できるとモスクワが踏む可能性は排除できないでしょう。
新年からどうもあまり明るい話になりませんでしたが、これが不吉な初夢に終わることを祈りたいと思います。また、冒頭で述べたとおり、2022年には北朝鮮とカザフスタンに関しても不穏な動きが見られるので、何事もなければ次回はこちらの話を取り上げたいと思います。
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