東大「理3合格」を至上命題にしている限り日本の衰退が止まらない理由

 

例えば、アメリカにとっての理3にあたるのは、MIT(マサチューセッツ工科大学)でもなければ、ハーバード(理系はそんなに強くない)でもありません。

それはカリフォルニア工科大学(略称カルテック、カリフォルニア州パサデナ市)です。本来は大学院以上の研究に特化した機関ですが、大学も附設されており、1学年200人前後を入学させています。

理3より多いかもしれませんが、アメリカの人口が日本の3倍、若年人口は4倍ということを考えると、反対に理3より2倍難しい大学という見方もできます。実際は全世界から優秀な科学者の卵を集めているので、入りやすさという点では理3の10倍難しいかもしれません。

そのカルテックに入るためには、どうしたら良いのかというと、学校の成績(内申書)とか、統一テスト(SATなど)の点数だけではダメで、「科学者の卵としての研究テーマと仮説」を持っていることが最低条件になります。

そうした若者は、高校生のうちから学術論文を大量に読み、自分でも書き、多くの年上の研究者と意見交換して、自分の実力を磨いているのです。ちなみに、そんな「早熟な研究者」を評価するのはカルテックだけではありません。他の欧米の大学も、あるいは中国やシンガポールの大学なども、同じようにそうした人材を集めています。場合によったら、飛び級させてでも、あるいは高額な奨学金を用意して、優秀な若者を集めようとしているのです。

サイエンスの場合は研究が第一ですが、日本でいう文系の場合は、必ずしも論文を読んだり書いたりということには限りません。

「起業して実際にビジネスを走らせている」
「社会問題に危機感を抱いて運動を立ち上げている」
「メディアを通じて世論形成のための活動をしている」
「アートの領域で、既に国際的な評価を勝ち取っている」

というような活動を高校生の年齢でも始めている人材は多く、その中で優秀な人材は同じように世界中の大学の間で争奪戦になっているのです。

最先端の部分における人材獲得の大競争は、大卒の人材を世界の企業が集めようとしているだけでなく、高校のレベルの人材についても世界の大学が必死になって集めているのです。

理3を頂点とした日本のシステムというのは、例えば北朝鮮が鎖国して国民を囲い込んでいるのと同じように、日本の基礎能力の高い若者を、世界における「早熟な知識人育成の大競争」と完全に切り離してしまっています。

何が問題かというと、「理3の入試に受かる」ということを至上命題として、高い基礎能力の若者集団が囲い込まれているということは、それだけ世界の知性における大競争から、若者を切り離し、しかも「易しすぎる内容」に押しとどめているからです。

こんなことをやっている限り、日本の衰退は止まらないでしょう。

政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報が届く冷泉彰彦さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

 

初月無料購読ですぐ読める! 1月配信済みバックナンバー

※2022年1月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、1月分のメルマガがすべてすぐに届きます。
2022年1月配信分
  • 【Vol.414】冷泉彰彦のプリンストン通信『ウクライナ危機、想定シナリオ』(1/25)
  • 【Vol.413】冷泉彰彦のプリンストン通信『バイデン政権は危険水域?』(1/18)
  • 【Vol.412】冷泉彰彦のプリンストン通信『在日米軍を考える』(1/11)
  • 【Vol.411】冷泉彰彦のプリンストン通信『オミクロンとアメリカの政治経済』(1/4)

いますぐ初月無料購読!

<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>

初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込880円)。

2021年12月配信分
  • 【Vol.410】冷泉彰彦のプリンストン通信『年末特集、ガラガラポン待望論を忘れよ』(12/28)
  • 【Vol.409】冷泉彰彦のプリンストン通信『国境閉鎖とコロナ後への備え』(12/21)
  • 【Vol.408】冷泉彰彦のプリンストン通信『民主主義サミットの限界』(12/14)
  • 【Vol.407】冷泉彰彦のプリンストン通信『日米関係は大丈夫か』(12/7)

2021年12月のバックナンバーを購入する

2021年11月配信分
  • 【Vol.405】冷泉彰彦のプリンストン通信『アメリカの分断疲れ』(11/23)
  • 【Vol.404】冷泉彰彦のプリンストン通信『日本のワクチン戦略』(11/16)
  • 【Vol.403】冷泉彰彦のプリンストン通信『選挙後の日米政局(11/9)
  • 【Vol.402】冷泉彰彦のプリンストン通信『総選挙結果を考える』(11/2)

2021年11月のバックナンバーを購入する

2021年10月配信分
  • 【Vol.401】冷泉彰彦のプリンストン通信『総選挙、3つの疑問点を解く』(10/26)
  • 【Vol.400】冷泉彰彦のプリンストン通信『日本病の原因を探る』(10/19)
  • 【Vol.399】冷泉彰彦のプリンストン通信『岸田演説から経済政策を読み解く』(10/12)
  • 【Vol.398】冷泉彰彦のプリンストン通信『岸田新政権の経済感覚を疑う』(10/5)

2021年10月のバックナンバーを購入する

2021年9月配信分
  • 【Vol.397】冷泉彰彦のプリンストン通信『総裁選直前、各候補を比較する』(9/28)
  • 【Vol.396】冷泉彰彦のプリンストン通信『アベノミクスの功罪』(9/21)
  • 【Vol.395】冷泉彰彦のプリンストン通信『911テロ20周年の追悼』(9/14)
  • 【Vol.392】冷泉彰彦のプリンストン通信『911テロ20周年+政局緊急特集』(9/7)

2021年9月のバックナンバーを購入する

2021年8月配信分
  • 【Vol.393】冷泉彰彦のプリンストン通信『アフガン情勢、現状は最悪のシナリオではない』(8/31)
  • 【Vol.392】冷泉彰彦のプリンストン通信『混乱続くカブール、バイデンは失敗したのか?』(8/24)
  • 【Vol.391】冷泉彰彦のプリンストン通信『カブール陥落と、反テロ戦争の終わり』(8/17)
  • 【Vol.390】冷泉彰彦のプリンストン通信『日本の政局の重苦しさを考える』(8/10)
  • 【Vol.389】冷泉彰彦のプリンストン通信『コロナとアメリカの分断の現在』(8/3)

2021年8月のバックナンバーを購入する

2021年7月配信分
  • 【Vol.388】冷泉彰彦のプリンストン通信 アメリカから見た東京五輪の開会式中継(4つの観点から)(7/27)
  • 【Vol.387】冷泉彰彦のプリンストン通信 東京五輪を直前に控えて、安全と安心の違いを考える(7/20)
  • 【Vol.386】冷泉彰彦のプリンストン通信 日本人差別事件に関する3つの視点
    (7/13)
  • 【Vol.385】冷泉彰彦のプリンストン通信 バイデン政権の弱点は、反ワクチン派と副大統領周辺か?(7/6)

2021年7月のバックナンバーを購入する

2021年6月配信分
  • 【Vol.384】冷泉彰彦のプリンストン通信 バイデン政策と現代資本主義論(政府の役割とその限界)(6/29)
  • 【Vol.383】冷泉彰彦のプリンストン通信 資本主義は修正可能か?(その2、改めて議論を整理する)(6/22)
  • 【Vol.382】冷泉彰彦のプリンストン通信 資本主義は修正可能か?(その1、現代の価格形成トレンド)(6/15)
  • 【Vol.381】冷泉彰彦のプリンストン通信 コロナ・五輪の迷走が示す「お上と庶民」相互不信の歴史(6/8)
  • 【Vol.380】冷泉彰彦のプリンストン通信 ロッキードと現在、政治の不成立(6/1)

2021年6月のバックナンバーを購入する

2021年5月配信分
  • 【Vol.379】冷泉彰彦のプリンストン通信 台湾海峡をめぐる4つの『ねじれ』(5/25)
  • 【Vol.378】冷泉彰彦のプリンストン通信 五輪追加費用、問題はIOCより国内の利害調整では?(5/18)
  • 【Vol.377a】冷泉彰彦のプリンストン通信 五輪の食事会場に『監視員配置して会話禁止』、どう考えても不可(5/14)
  • 【Vol.377】冷泉彰彦のプリンストン通信 東京五輪をめぐるカネの話を怪談にするな(5/11)
  • 【Vol.376】冷泉彰彦のプリンストン通信 衰退途上国論(5/4)

2021年5月のバックナンバーを購入する

2021年4月配信分
  • 【Vol.375】冷泉彰彦のプリンストン通信(4/27) (緊急提言)コロナ政策、全面転換を主権者に問え!
  • 【Vol.374】冷泉彰彦のプリンストン通信(4/20) 菅=バイデンの「対面首脳会談」をどう評価するか?
  • 【Vol.373】冷泉彰彦のプリンストン通信(4/13) 政治はどうして『説明』ができなくなったのか?
  • 【Vol.372】冷泉彰彦のプリンストン通信(4/6) 主権者が権力を委任しなくなった未来国家ニッポン

2021年4月のバックナンバーを購入する

2021年3月配信分
  • 【Vol.371】冷泉彰彦のプリンストン通信(3/30) オワコンばかり、3月4月のイベントは全面見直しが必要
  • 【Vol.370】冷泉彰彦のプリンストン通信(3/23) 中国の経済社会は、ソフトランディング可能なのか?
  • 【Vol.369】冷泉彰彦のプリンストン通信(3/16) 五輪開催の可否、3つのファクターを考える
  • 【Vol.368】冷泉彰彦のプリンストン通信(3/9) 311から10周年、被災地だけでない傷の深さ
  • 【Vol.367】冷泉彰彦のプリンストン通信(3/2) 日本でどうしてトランプ支持者が増えたのか?

2021年3月のバックナンバーを購入する

image by: YMZK-Photo / Shutterstock.com

冷泉彰彦この著者の記事一覧

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 冷泉彰彦のプリンストン通信 』

【著者】 冷泉彰彦 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 第1~第4火曜日発行予定

print
いま読まれてます

  • 東大「理3合格」を至上命題にしている限り日本の衰退が止まらない理由
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け