米の“オオカミ少年”国務長官「ロシアが来る」「中国も危険」にかき回される世界

 

ヌランドの秘密シナリオ

そのヌランドが12月のウクライナ訪問から帰国後に駐ウクライナ米大使のジェフ・パイエトと交わした通話の録音も2月7日にYouTubeに公開されて、世界中で大きな話題となったが、日本のメディアでは扱いは小さかった。これを核心的事実として据えてウクライナ情勢を分析すれば、冒頭に述べたような単純二元論に陥ることは避けられそうに思うのだが、米国に遠慮しているのかロシア憎しで凝り固まっているのか、そういう論調はほとんど現れなかった。


Ukraine crisis: Transcript of leaked Nuland-Pyatt call(BBCによる文字起こしと解説)

米国務省も本物と渋々ながら事実と認めたこの会話で、2人は次の政権の人事問題まで突っ込んで議論しており、実際に2月には彼らが言うとおりの暫定政権が成立した。一部を仮訳要約する。

ヌーランド(N) 「あなたはどう思う?

 

ハイアット(P) 「我々のゲームはもう始まっていると思う。クリチコの存在が厄介で、彼が副首相になると[上記、1月25日のヤヌコビッチ妥協案のことか?]まとまるものもまとまらないから、早く彼の収まり所を判断しないと。ヤツェニュクに電話して、彼をこのシナリオの中で適切な位置に据えることを言ったほうがい」

 

N 「そうね。私はクリチコは政権に入るべきでないと思う。それは不必要なことだ」

 

P 「彼には政権の外にいて政治のお勉強をしてもらうのがいい。このプロセスを前進させるには、穏健民主派をまとめていくことが大事だ。問題はチャグニボクとその一党になるだろう。ヤヌコビッチはそのことも計算に入れているだろうと思う」

 

N 「ヤツェニクは経済の経験があり、統治の経験もある。彼にとってはクリチコとチャグニボクは外に置くことが必要だ。クリチコがヤツェニュクのために働いても、あの程度ではうまくいかない。……彼ら4人が会談した席でヤツェニクがなぜ彼がクリチコを入れたくないかを説明する前に、我々が裏でやらないと」

N 「国連の潘基文事務総長がロバート・セリー[ウクライナ担当国連特使]をウクライナに派遣することに合意した。この件をまとめるのに国連が手助けしてくれるのはありがたい。EUなんてクソ食らえだ[このひと言を後に彼女はEUに謝罪することになった]。

 

P 「全くです。だから我々は指導者たちをくっつけるために何とかしなければとやってきた。EUが動き出してもロシアが裏から潰すでしょう。……もう1つの問題は、ヤヌコビッチに何らかの接触をすることだ」

 

N 「それについては、サリバン[副大統領安保補佐官]が来てバイデン[副大統領]が手助けしてくれると言うの。たぶん明日、彼に会って接着の詳細を話すわ。バイデンがそれを望んでいるので[これが2月18日のバイデンの電話に繋がる?]」

これについてBBCのジョナサン・マーカスは解説文で、米国は表向き「ウクライナの将来を最終的に決めるのは国民だ」というようなことを言っているが、この記録を見れば、米国が極めてはっきりしたアイディアを持ってその目標達成のために奮闘していることが分かる、と指摘している。また、米国は(いつものことだが)EUの努力にフラストレーションを抱いていて、EUのようにゲームを長引かせるのではなく、遥かに実践的な役割を果たすことをはっきりと決断している、とも指摘してい
る。

実際、この通話の時点では大衆的に人気No.1で、5月大統領選に出馬するのが確実と見られていたクリチコも、政権打倒には役立つけれども中に入れたら危険なチャグニボクも、新政権の外に置いて親欧米派のヤツェニクがやりやすいように事を運んで米国の言うことを聞くウクライナにしようというネオコン戦略は見事に奏功して、そのとおりの政権が出来た。

クリチコは29日のウダル党大会で、親欧米派の大統領候補として急浮上しつつある企業家出身のポロシェンコ議員を「民主勢力の統一候補」として支持し、自らはキエフ市長選に立候補することを発表した。ヤツェニク首相の「祖国」は、かつてのオレンジ革命の寵児で今も党首であるチモシェンコ元首相を立てることを決めたが、彼女も汚職疑惑で投獄されて昔の輝きはない。30日の立候補締め切りの数日前の世論調査では、ポロシェンコがだんとつ1位で25%、クリチコが8.9%、チモシェンコが8.2%だった。

ただ、元々民族派であって親欧米路線とは相容れないチャグニボクらがこのままおとなしくしているわけがなく、すでに新政権と「右派セクター」との軋轢も始まっている中で、そこがヌランド・シナリオの思わぬ落し穴にならないか、不気味である。

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