米の“オオカミ少年”国務長官「ロシアが来る」「中国も危険」にかき回される世界

 

プーチン=悪者論で済ませていいのか?──ウクライナ/クリミア争乱の深層

※ INSIDER No.725 2014/03/31

東京新聞3月26日付に東京の79歳男性の「一方的ロシア非難でいいのか」と題し
た投書が載っている。

▼「クリミア併合」を巡り、欧米諸国はロシアのプーチン大統領への非難を強め、日本のメディアも一斉に非難している。「クリミア住民投票はウクライナ憲法違反」という主張はもっともだろう。ただ、ロシアを擁護するわけではないが、今回の事態に至る発端が何だったのか、冷静に振り返る必要もあるだろう。

▼今年2月、EU当局者らの仲介により、ヤヌコビッチ大統領(当時)と野党代表との間で……政治危機回避でいったん合意した。にもかかわらず、野党勢力は武力衝突の末に政権を倒し、矢継ぎ早に新政権を発足させた。

▼いかに腐敗にまみれた政権といえども……暴力的に合法政権を転覆させたのは「ウクライナ憲法違反」ではなかったか。日欧米でウクライナ暫定政権の正統性がほとんど問われずにきたのは、不思議だ。……

その通りで、確かにプーチンのとった行動は賢明とは言えないし、国際法違反であることも明白だが、ヤヌコビッチとそれを支持したロシアが悪者で、民主化勢力=暫定政権側とそれを後押しした米欧は善良とする単純な二元論ではこの事態を理解することはできない。日本のマスコミは、2月22日のヤヌコビッチ政権崩壊と大統領逃亡以降、27日のヤツェニク暫定政権発足と同時のロシア武装部隊のクリミア侵攻から3月16日のクリミア住民投票へという直近1カ月余りの事態の急展開にばかり照準を合わせているので、なおさら「悪いのはプーチンだ」という論に傾きやすい。こういう時こそ、長短いろいろな物差しを当てて考えてみる必要がある。

4カ月前まで遡ると

まず、4カ月前の反政府デモ勃発のところまで遡ろう。発端は、ヤヌコビッチ大統領がEU加盟の前提条件となるものとして仮調印までしていたウクライナEU貿易協定を見送ると決定したことである。その日の午後にキエフの著名なジャーナリストが自身のフェイスブックで「22時30分に独立広場に集まろう。暖かい格好で、コーヒーと紅茶も忘れずに」と呼びかけ、実際に数百人が集まって大統領の親露反欧姿勢に抗議した。このささやかなデモが、たちまちのうちに数万人に膨れあがり、12月に入ると毎週日曜日に10万人を超えるデモ隊が出て政府の治安部隊と衝突を繰り返すようになり、1月19日には角材や火焔瓶で“武装”した集団が暴徒化して警察車両などに放火、それから4日間に一部では銃撃戦まで行われて死者6人、負傷者1,000人を出す惨事にまで発展した。

この間、政権側は、1月16日にデモ規制の新法を出してますます弾圧を強める一方、欧米首脳からの強い要請に応えて、ヤヌコビッチが1月25日、最大野党「祖国」幹部で元国会議長のヤツェニクを首相に、第2野党「ウダル(パンチの意味)」党首で元世界ヘビー級王者のクリチコを副首相にするとの妥協案を示したが、2人はあくまでヤヌコビッチの大統領辞任を求めて拒否した。このため政局は行き詰まり、アザロフ首相率いる内閣は1月28日、総辞職した。2月に入ると衝突は内戦と呼べるほどに激化し、18日には市民と治安部隊双方に銃撃による7人ずつの死者が出た。その日バイデン米副大統領がヤヌコビッチに電話で、治安部隊の撤収と野党との対話を要求したのを受けて、翌20日、ヤヌコビッチがクリチコと会談したが不調に終わる一方、この日街頭では94人が死亡し900人が負傷する最悪事態が現出、これでヤヌコビッチはついに持ちこたえられなくなった。

他方ロシアは、2月7日開幕のソチ冬季五輪を国際社会から人質に取られた格好で身動きが出来ず、12月17日にプーチンがウクライナ政府に日本円で1兆5,400億円の巨額財政支援を行い、同国向けの天然ガスの価格を30%引き下げることなどを発表、経済面でウクライナ国民をなだめようとしたが、焼け石に水で終わった。五輪開幕式では日本を除く主要国の首脳が揃ってボイコットしてプーチンに屈辱を味わわせ、「ウクライナに手を出したら承知しないぞ!」という脅迫的なメッセージを叩きつけた。

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