米の“オオカミ少年”国務長官「ロシアが来る」「中国も危険」にかき回される世界

 

市民デモが変質した訳

昨年11月21日以来の経過を振り返って異様に感じることの第1は、たかだかEUとの貿易協定の調印見送り程度の話で始まった穏やかなデモが、わずか2カ月のうちに死者が出るような衝突にまで発展し、さらにその1カ月後には政権が引っ繰り返るところまで行き着くというそのスピードである。

もちろん、貿易協定問題がきっかけとなって、長年のロシアへの政治的・経済的・文化的従属とその下での経済破綻の進行への不満の鬱積に一気に火が着いたということもあるだろうし、それに対する政権側の過剰な弾圧姿勢がさらに油を注いだということもあるだろう。

それにしても、現地からの初期の報道では、デモ参加者の中心は組織されない一般市民で、会社員、医師、アーティスト、農民、ユダヤ人やタタール人などのマイノリティ、宗教者など多種多様な人々の自発的な参加が目立っていて、政党指導者やナショナリスト集団などはほとんど表に出ていないという報告がなされていた。ところがそれが12月中旬あたりを境にして一変し、上述「祖国」や「ウダル」など親欧的な野党だけではなく、ウダルに次ぐ第3野党の「スヴォボダ(自由)」を中心とする右翼民族派やネオナチ集団が次第に主導権を握り、市民の怒りを利用して政権打倒の暴力革命へとリードしていったように見える。

スヴォボダの党首は歴としたネオナチのチャグニボクで、そのスヴォボダを中心に「ウクライナ愛国者」「ウクライナ民族会議─ウクライナ自衛(UNA-UNSO)」「トリズブ(ウクライナ紋章の三叉の意味)」などの右翼団体から構成される「右派セクター」という横断的な右翼政治組織を作っている。彼らが共通して崇拝するのは、1941年にナチス・ドイツが対ソ開戦してウクライナに侵攻した際、進んでナチ同盟者となってユダヤ人やポーランド人の虐殺しソ連と戦ったことで知られる「ウクライナ民族主義者組織」の指導者ステパン・バンデラで、チャグニボクらはウクライナの独立後、彼を名誉回復して“愛国者”と位置づけるよう運動を繰り広げてきた。

1月19日以降、銃撃による死者がデモ側と治安部隊の双方に出始めたのは、このネオナチ集団が市民に狙撃手を紛れ込ませて混乱を拡大しようとした挑発行為ではないかとの疑惑が出ている。3月5日にYouTubeに公開された、ウマス・パエト=エストニア外相がキエフ現地視察の後2月22日にキャサリン・アシュトンEU外相に電話をした通話録音によると、同外相は「警察と市民の双方を殺した狙撃手は抗議運動側の挑発者の雇ったもの」と言い、遺体を検分した女性医師が写真を示しながら「双方の死者ともが同じ弾丸で撃たれている」と証言したことを伝えている。

Breaking: Estonian Foreign Minister Urmas Paet and Catherine Ashton discuss Ukraine over the phone

これはロシアの情報機関が盗聴して流したものに違いないが、同外相はこの通話が本物であることを認め、「ただし新政権が雇った狙撃手と断定したわけではない」と付言した。

これを受けてロシアのラブロフ外相は8日、2月に起きた反政府デモと警官隊の衝突時、市民と警官多数を射殺した狙撃手の正体を全欧安保協力機構(OSCE)が調査するよう要請した。欧米では、狙撃したのは政府側の治安部隊に決まっているという調子で報道されてきた。

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