米の“オオカミ少年”国務長官「ロシアが来る」「中国も危険」にかき回される世界

 

元々存続してはならなかったNATO

米国や日本の報道では、ロシアがこのようなことを求めること自体が生意気であるかの論調が支配的である。たぶんブリンケンごときはその歴史的経緯そのものを知らないのだと思うが、冷戦体制が崩壊して米露が真っ先に取り組まなければならなかったのは、その体制の実体的な中心機構であった米欧のNATOと旧ソ連中心のワルシャワ条約機構(WTO)を解消することで、ゴルバチョフは1991年3月にWTOを解体したが、米国はそれに対応してNATOを解体することを拒んだ。理由は単純で、当時の米大統領ブッシュ父は、冷戦が終わったということはNATOにせよWTOにせよ、予め仮想敵を設定してそれに向かって味方が結束して立ち向かうという国際政治の基本的な姿が終わったのだということを理解せず、「冷戦で米国は勝利しロシアを敗北させた。これからは米国が“唯一超大国”であり、遮る者もいないやりたい放題の時代だ」と錯覚した。この米国の“唯一超大国”幻想こそが、その後の世界に混乱に次ぐ混乱を呼び起こしてきたのである。

最初のうちこそロシアに遠慮して、ロシアとの協議機構を設けるなどしたNATOも、次第にそのゆとりを失って、旧東欧のみならずバルト3国など旧ソ連邦の国々まで加盟させ、ついに旧ソ連邦の中核であるウクライナとベラルーシにまで手を伸ばした。2014年春の段階では、もしウクライナがNATOに加盟を強行すればクリミア半島の先端にあるロシア黒海艦隊の大拠点港セバストーポリがNATOの手に落ちることになり、それはさすがに国家安保上の重大危機ということでプーチンは術策を駆使してこれを守りきった。ところがその後も、米国=NATOは、ウクライナの黒海やアゾフ海に面して新しい軍港を建設する計画をキエフ政府に出させ、それを支援することを表明するなど、あからさまなウクライナを主舞台にしたあからさまな「ロシア包囲網」を形成しようとしている。

そのようなそもそもの経緯から振り返ることもなく、ブリンケン少年の騒ぎ立てに調子を合わせた報道しかしていない日本のメディアは本当に酷い。

ちなみに、この少年を操っている米国務省の“魔女”はビクトリア・ヌランド国務次官である。彼女は夫のロバート・ケーガンと共にネオコンの中心活動家で、2014年のウクライナ政変の時には中心的な挑発者として働いた(以下の参考資料参照)。この構図でウクライナをめぐる米国策が動いていることを、認知バイアス気味のバイデン大統領は正しく認識していない可能性があり、このワシントンの有様こそが危機の大元である。

以下に、以前の本誌でウクライナを論じた稿を再掲する。

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