京都府連「選挙資金マネロン」によって買収罪の成立は否定できるか
では、都道府県連を経由させることによる選挙資金のマネーロンダリング(資金洗浄)と公選法の買収罪の規定との関係はどう考えたらよいのか。
特定の選挙で特定の候補者のために活動してもらうために資金が「供与」されるものであれば、公選法違反の買収罪の要件に該当する。「国会議員個人→地方議員個人」という直接のルートと、「国会議員個人→都道府県連→地方議員個人」という迂回ルートで違いがあるとすれば、県連を経由することで、必ず政治資金収支報告書に記載されるという「政治資金の処理の確実性」の点であろう。
克行氏の場合、「国会議員個人→地方議員個人」のルートで、「自民党の党勢拡大、地盤培養活動の一環としての地元政治家らへの寄附」という「政治資金の寄附」を行ったわけだが、領収書の交付は殆ど行われておらず、政治資金としての処理自体が適法なものではなかった。その点、「国会議員個人→都道府県連→地方議員個人」のルートは、都道府県連という政治資金処理が確実な組織を通している。そういう意味では、京都府連の「選挙資金マネロン」というのは、「政治資金規正法上の合法性」が確実に担保されている方法だと言える。
そこで問題になるのが、「政治資金規正法」上の合法性は完璧だが、それが「公選法」上、買収罪に該当する場合に、買収罪の違法性が否定されるのか、という点である。
一般的な「マネロン」は、原資や資金の流れを隠すことを目的にして行われる。しかし、京都府連の選挙資金マネロンは、「候補者が京都府連に寄附し、それを原資に府連が各議員に交付する」という方法で資金の流れを透明化し、政治資金規正法上は「合法な寄附」にすることが目的だ。「当選を得させる目的」で、「選挙運動者」に金銭を「供与」すれば買収罪が成立するのであり、「当選させる目的」が認められる場合、判例上「選挙運動」は「特定の公職選挙の特定の候補者の当選のため直接・又は間接に必要かつ有利な一切の行為」とされているので、「党勢拡大のための政治活動」のためであっても、特定の選挙のための活動を目的としていれば「選挙運動者」に当たることに疑問の余地はない。結局、使途を限定しない金銭提供である以上「供与」に該当するので、公選法上の買収に該当することは否定できない。「政治資金の寄附」を公選法上の合法なものにしようと思えば、「供与」に該当しないように、使途を限定して資金を提供し、事後に、その使途に使ったことについての領収書の提出を受けるしかないのである。
(『権力と戦う弁護士・郷原信郎の“長いものには巻かれない生き方”』2022年2月15日号より一部抜粋。続きは、2022年2月中にお試し購読スタートすると、2月分の全コンテンツを無料(0円)でお読みいただけます)
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