“第2の河井夫妻”事件か。元検事・郷原信郎氏が解説する自民京都府連マネロン問題の裏側

 

買収罪の成立要件と従来の摘発対象

公選法上の「買収罪」というのは、

当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与、その供与の申込み若しくは約束をし又は供応接待、その申込み若しくは約束
(221条1項1号)

をすることである。

「当選を得る目的」「当選を得しめる目的」で、選挙人又は選挙運動者に対して「金銭の供与」を行えば、形式上は、「買収罪」の要件を充たすことになる。「供与」というのは、「自由に使ってよいお金として差し上げること」だ。「選挙運動者」に対して、「案里氏を当選させる目的で」と「自由に使ってよい金」として、金銭の授受が行われれば、買収罪が成立することになる。

公職選挙への立候補者が当選をめざして行う活動としては、当該候補者が立候補を決意するとまず、政党の公認・推薦を獲得する活動、選挙区内での知名度向上に向けての活動などを行い、その後、選挙運動組織の整備、選挙事務所の設置、ポスター・チラシ等の文書印刷などの選挙準備を行い、選挙公示から投票日までの間、本格的な選挙運動が行われるという経緯をたどる。

このような活動は、すべて公職選挙での当該候補者の当選を目的として行われるものであり、それに関して他人に何らかの依頼をし、それにかかる費用のほか、対価・報酬が支払われることもあるが、その段階に至る前の行為には、「選挙に向けての支持拡大のための政治活動」としての「地盤培養行為」という要素もある。公示日から離れた時期であればあるほど、「選挙運動」ではなく「政治活動」という性格が強くなる。そのため、従来の公選法違反の摘発の実務では、「買収」罪が適用されるのは、「選挙運動期間中」などに、直接的に投票や選挙運動の対価として金銭等を供与する事例に限られ、選挙の公示から離れた時期の金銭の授受が、買収罪で摘発されることは殆んどなかった。公示日から時期的に離れた金銭の授受の事案が「買収」による摘発の対象にされなかったのは、有罪か無罪かという判断において、法律上、公選法違反が成立しないというより、従来の日本の公職選挙の慣行に配慮した面が大きいと考えられる。

金銭を供与する相手が地方議員や首長等の政治家であっても、「当選を得させる目的で」選挙に関する活動を依頼するのであれば、「選挙運動者に供与した」という要件は充たされる。「政治資金」としての性格があっても、買収罪の要件が否定されるわけではない。公示日よりかなり前の時点で、選挙に関連して、特に、地方政治家や有力者に対して相当な金額の資金提供が行われることは珍しいことではなく、それをいちいち買収罪だとしていたのでは、ほとんどの選挙が、買収だらけになってしまうということから、警察は摘発を抑制し、検察も起訴を敢えて行ってこなかったというのが実情であった。

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