“第2の河井夫妻”事件か。元検事・郷原信郎氏が解説する自民京都府連マネロン問題の裏側

 

河井夫妻事件で異例の「買収罪」適用に踏み切った検察

そういう意味で、参議院選挙の3か月前頃から、広島県内の議員や首長などの有力者・後援会関係者に多額の現金を渡していた事実が「買収罪」に当たるとされて河井夫妻が逮捕されたことは、従来の公選法の罰則適用の常識からすると異例だった。首長・県議・市議らの地元政治家に対する金銭供与は、「党勢拡大・地盤培養活動のための政治資金の寄附」の主張が予想され、それ以前は、ほとんど摘発の対象にされてこなかったため、異例の摘発が行われたことの影響は甚大だった。

買収罪で逮捕・起訴された克行氏は、初公判では起訴事実は買収には当たらないとして全面無罪を主張していたが、被告人質問初日に罪状認否を変更し、首長・議員らへの現金供与も含め、殆どの起訴事実について、「事実を争わない」とした。しかし、その後の被告人質問で述べたことは、「自民党の党勢拡大、地盤培養活動の一環として、地元政治家らに対して、寄附をしたもの」との初公判での主張と何ら変わらなかった。つまり、従来どおりの「自民党の党勢拡大、案里及び被告人の地盤培養活動」を「案里氏に当選を得させるために」行ったことが、買収罪に問われたということなのである。

前法務大臣の衆議院議員とその妻の現職参議院議員の公選法違反による同時逮捕という「憲政史上前代未聞の大事件」は、克行氏の有罪判決で、戦後続いてきた「政治資金を隠れ蓑とする選挙資金の供与」が買収罪に問われることになり、日本の公職選挙に「激変」をもたらすことが必至だと考えられた。そして、そのような旧来のやり方で選挙資金の供与を受けた広島県の地方政治家が大量に被買収の罪に問われて失職する事態になることも避けられないはずだった。

ところが、河井夫妻の起訴状で被買収者とされた地方議員・首長等100人については、刑事処分が行われず、その後、公選法違反で告発されて不起訴になっていた。検察審査会は、広島県議や広島市議、後援会員ら35人(現職県議13名、現職市議13名)については、「起訴相当」議決を行った。

議決を受け、検察は、起訴相当とされた首長・議員35人については、事件を再起(不起訴にした事件を、もう一度刑事事件として取り上げること)して全て起訴するだろう。従来の公選法違反の求刑処理基準によれば、「1万円~20万円が略式請求(罰金刑)」で、「20万円を超える場合は公判請求(懲役刑)」である。執行猶予付き懲役刑であれば執行猶予期間、罰金刑であれば原則5年間(情状により短縮可)公民権停止となるので、現職議員等は失職、公民権停止期間中は公職の選挙に立候補できない。

この検察審査会の起訴相当議決を受け、現職県議、市議が次々と議員辞職するなど、広島県政界には、大きな混乱が生じている。

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