不気味な中国の動き。ロシア「ウクライナ侵攻」に沈黙を貫く隣国の思惑

 

ではコソボ紛争時のセルビア共和国への空爆のように、ロシアへの空爆(攻撃)を行うのでしょうか?

それは非常に非現実的と言わざるを得ません。ロシア軍自体は、まだまだ世界最強の軍事組織ですし、極超音速ミサイル、そして核保有国であるため、ロシア本土への攻撃は、核戦力同士の直接衝突を意味し、場合によっては核による報復のトリガーになってしまいかねない状況を作り出しかねません。あくまでも最悪のシナリオではありますが。

これも考えづらいので、実際には欧米諸国がロシアに取り得る手段はかなり限定的になるということです。

時折持ち出される国際決済システムからの排除は、確かにロシアの金融をつぶすことになりますが、同時に欧米諸国はエネルギーなどをロシアから調達する道を閉ざされますし、あまり報道されませんが、世界の飼料の3割ほどのシェアを持つウクライナをロシアに抑えられている状況下では、世界経済へのネガティブなインパクトは計り知れません。ゆえにこれも考えづらいチョイスです。

対ロシア経済制裁をかなり厳しい内容にし、同盟国が一致団結して一枚岩の対応を行うのが大前提ですが、同時に各国内の企業の抜け駆けを厳しく罰する法的な基盤も整備したうえでの制裁実施しかないのだと思います。しかし、自由経済を標榜し、それを価値観の前面に打ち出す国々にそれができるでしょうか?疑問です。

一応、いろいろなオプションを、「もし私が調停の任に就くのであれば」という前提で練っているのですが…。

ところで今回の一連の事案で一つ不気味な動きをしている国があります。

それは中国です。

北京冬季五輪の開会に合わせて訪中したプーチン大統領と習近平国家主席が会談し、「特別な関係」を強調することは出来ましたが、中国はロシアとの軍事同盟は否定し、またウクライナ問題にもコメントをしませんでした。

その後も、自国の置かれている状況にも鑑みて、国家安全保障の立場からロシアが取る行動への理解を示してはいるものの、21日の2つの支配地域の独立をロシアが認めた際、中国はコメントを出しませんでした。

そして、24日のロシアのウクライナ侵攻を受けても、「平和的な解決を望む」という程度のコメントにとどめ、安保理でも積極的に欧米との対峙もしなければ、ロシアの意見の擁護もせず、それでいてウクライナの国連大使の意見にも“理解”を示す対応を選択しています。

対ウクライナについては、一帯一路上の重要なマーケットという位置づけがあることも理由として挙げられますが、今回の事案については、ロシアに対しても、ウクライナに対しても、一定の距離を保った対応をしているように思われます。

では一体何をしているのでしょうか?

いくつか聞いた内容を整理し、分析をすると以下のようなシナリオが見えてきます。

近い将来、中国が台湾への侵攻を実行した場合、欧米をはじめとする国際社会はどのように反応し、どのような制裁を中国に課すのかを、国際社会の対ロ制裁の様子を見ながら淡々と分析し、中国が決定的な行動を取る際に、どのように対応すべきかを非常に真剣に検討しているようです。

それに加えて、プーチン大統領が今回の対ウクライナ開戦の動機に用いた方法を“認める”ことは、中国にとっては新疆ウイグル自治区問題やチベット自治区における独立機運に火をつける可能性が高く、それは中国国内の混乱を招くと判断されたと思われます。

習近平国家主席の第3期目の任期の可否を決める全人代がこの秋に開かれるタイミングで、国内情勢に混乱をきたすことは避けなくてはならないとの判断でしょう。

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