中東やアフリカでも影響力拡大を狙うプーチン大統領
一方、ウクライナ侵攻を決断したプーチンには、米国はロシア軍との軍事衝突を避ける、ウクライナに介入できないとの確信があったに違いない。プーチンは21世紀以降の米国の対外姿勢をよく分析しており、米国の力が相対的に低下するにつれ、ロシアの覇権を進めてきたと思われる。昨今、ウクライナ情勢に注目が集まっているが、ロシアの覇権的行動は何もウクライナなどの東欧、旧ソ連圏の中央アジアだけではない。
例えば、米国のプレゼンスが弱まるように、ロシアはアフリカや中東でのプレゼンスを強化している。アフリカ地域のサヘルや中央アフリカ一帯では、近年イスラム過激派によるテロやクーデターなどが相次いでいるが、そのような地域では治安維持などにあたるロシアの民間軍事会社ワグネルの傭兵たちの姿が目立つ。ワグネルの傭兵たちの多くは元ロシア兵で、ロシア政府はワグネルとの関係を否定しているが、実際ロシアは政治的にアフリカでの影響力を高めようとしている。サヘル各国の軍や警察は広大な国境地帯を管理できないので、米国やフランスが撤退する中、ロシアのワグネルへの依存度を高めている。また、ロシアは昨年末、紅海に面したアフリカ北東部スーダンとロシア海軍の拠点を設置することで合意したが、これも紅海を経てインド洋に展開するための拠点を作ろうとするロシアの戦略的一環と思われる。
また、シリア内戦以降、ロシアは同国のアサド政権を支援するため軍事的なプレゼンスを強化している。2月に米軍の特殊部隊がシリア北西部イドリブ県でイスラム国最高指導者を殺害したように、米国も同国に数百人レベルの軍事プレゼンスを示しているが、シリアにおけるロシアの軍事的プレゼンスは米軍に対して圧倒的に優勢だ。ロシアが中東シリアを重視する背景には黒海に繋がる地中海地域での影響力確保がある。ロシアは最近も地中海東部で海軍による軍事演習を実質するため、シリアに最新鋭の戦闘機や極超音速ミサイルなどを配備した。シリア北西部ラタキア県にはロシア軍が常駐するメイミーム空軍基地もある。
米国の影響力が低下することで、ウクライナなど周辺地域でのロシアの活動が今後もエスカレートするだけでなく、遠く離れた中東やアフリカでもいっそう影響力拡大を狙うことだろう。
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