プーチンの大罪。ウクライナ戦争で西側諸国が直面する「7つの難問」

 

3番目は「国のかたち」問題です。これは西側の問題ではなく、ロシアについてです。現在のロシアは、軍事独裁国あるいは開発独裁のような格好になっています。ですが、これはロシアの正当な「憲法による国の定義=国のかたち」としては、非常に異例な状況です。

ロシアについては、まず1917年以前の帝政があり、これが共産党の革命によって倒されて、レーニンによる「緊急避難的なプロレタリア独裁」が敷かれました。彼らなりに、格差を一気に是正させるために「労働者の政府に独裁権力を」与えたのです。

ところが、レーニンの死後、権力を独占したスターリン以降は、社会主義の理想を実現するというよりも、「プロレタリア独裁」を建前とした「開発独裁」いや「計画経済独裁」もしくは「戦時独裁」の体制に移行してしまいました。そして、権力を寡頭制もしくは個人崇拝のリーダーに集中させたのです。以降は、フルシチョフもブレジネフも同じように行動して、最終的に国家破綻に至ってソ連は倒れてしまいました。

このソ連崩壊という事件は、一般的に民主革命のように思われています。ですが、エリツィンから権力を奪ったプーチンの行動は、まるでケレンスキー内閣から権力を奪ったレーニンのように、事実上の民主制の停止であり、同時にスターリン方式の独裁への回帰とも言えます。このロシアの「政体=国のかたち」というのは、一体何なのかというのが問題です。

例えばですが、金泳三以前の韓国というのは、独裁者がクルクル変わって、その度に憲法を改定していたので、全く誉められた話ではないのですが、国の政体がどうなっているのかは、ある程度分かりました。ですが、現在のプーチンの政体というのは、一体何なのか、どのようなチェック機構があるのか、今後起こりうる権力の承継はどのように行われるのか、全く見当がつきません。

中国の場合は、それなりに中南海の中に複数の政治グループがあり、選挙制度はない中でも権力の行方というのは、予測もできるし、現在位置の確認も間接的ではありますが見えるわけです。ですが、この「プーチン独裁」というのは、一体何なのか、これは世界にとって大きな問題と言えます。少なくとも、安保理の常任理事国であり、NPT上の合法核保有国だということもあります。

4点目は、その国連の問題です。今回の一件で、プーチンは平和に関心がない戦争犯罪者であるし、ロシアもそのような軍国主義国家なので、安保理から追放すべきだとか、拒否権を持つ常任理事国の地位を剥奪すべきという議論があります。日本の岸田総理なども、やたらに「国連改革」などと主張していますが、方向ということではロシア外しということになります。

これは非常に問題だと思います。というのは、国際連合の制度設計に大きく違反するからです。どうして常任理事国である5大国には拒否権が付与されているのかというと、それは5大国の意見が割れた場合に、少数派の大国が国連から脱退するのを防止するためです。

仮に拒否権がなくて、安保理が単純に多数決で決議ができるとします。そうなると、例えば、今回の戦争では安保理がウクライナ擁護の決議をすることが可能になってしまいます。そうなれば、ロシアは国連を脱退するわけで、その場合は、世界大戦が勃発する危険性は高まります。この問題には前例があります。満州事変後に国際連盟が派遣した「リットン調査団」の報告を不服とした日本が、国際連盟を脱退してしまい、以降は連盟としては世界大戦防止の調整能力を喪失してしまいました。

これを教訓として、安保理常任理事国には拒否権が付与されています。冷戦期には、この拒否権が何度も発動されたために、国連が無力だと批判されることが多かったのですが、最終的に米ソが直接対決するような世界大戦は回避されました。拒否権というのが国連の制度設計の根幹というのはそういった意味です。

ちなみに、ロシアは「反人権国家」だという理由で、国連の人権理事会から追放するという動きがありますが、これも賛成できません。ロシアを除名した人権理事会で、ロシア批判をしても、非当事者による批評に過ぎなくなります。ロシアをメンバーとして残せば、人権理事会は正当な批判の場になり得ます。

政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報が届く冷泉彰彦さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

 

print
いま読まれてます

  • プーチンの大罪。ウクライナ戦争で西側諸国が直面する「7つの難問」
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け