デジタルアートの取引などで注目されるNFT。その最先端を行く米国で、初めて詐欺容疑での逮捕者が出たそうです。この問題にメルマガ『週刊 Life is beautiful』著者で「Windows95を設計した日本人」として知られる世界的エンジニアの中島聡さんが言及。これまでも、その可能性とともにエンジニアとしてのシビアな目で危険性を伝えていた中島さんは、GACKT氏が広告塔となってひと騒動あったICOブームに似てきたと、更なる警告を発し、追いついていない法整備を急ぐ必要があると訴えています。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
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ICOブームに似てきたNFT
NFTには大きなポテンシャルを感じつつも、このメルマガでは、多発するだろう詐欺の可能性を警告して来ましたが、先週、最初の逮捕者が出ました。
● Duo charged with notorious ‘Frosties’ NFT rug pull scam
逮捕されたのは、Ethan Nguyen と Andre Llacuna の2人(どちらも20歳)で、“Frosties”と名付けた NFTをOpenSeaで発売し、完売と同時にウェブサイトを閉じ、売り上げで得た$1.1million相当のEthereumを米ドルに交換した結果、「詐欺罪(最大20年の禁固刑)」でアメリカ合衆国司法省(DOJ)Department ofにより逮捕されたそうです。
この二人は、さらに“Embers”と名付けたNFTを3月26日に発売する準備をしており、そこでもさらに$1.5millionの売り上げを計画していたそうです。
ちなみに、こんな風にお金を集めた途端にすぐに消えてしまうことを“Rug pull”と呼びます。“Rug”とは「足拭きマット」のような敷物のことで、誰かが上に立っている時にいきなり敷物を引っ張るイメージから出来た言葉です。
“Rug pull”は明らかに犯罪なので分かりやすいのですが、NFTを販売した後になかなかサービスをローンチしない、サービスはローンチするものの出来が悪い、サービスはローンチするものの実態はポンジースキームなど、さまざまなケースがあり、「詐欺」と「努力をしたものの失敗したプロジェクト」との間に明確な境界はないので、危険がいっぱいです。
Bloombergは、NFTが詐欺や詐欺に紙一重のプロジェクトで溢れていたICOに似て来たと指摘していますが、私もそう思います。
● NFT Collection Failures Begin to Mount in Flashback to ICO Bust – Bloomberg
歌手のガクトが広告塔としてファンに売り捌いたスピンドルは、一応ICOはしたので“rug pull”ではありませんが、運営側はスピンドルに関して約束したことを何もしなかったので、実質的な詐欺でしたが、法律が追いついていないために、ガクトの責任は全く追求されませんでした。
NFTに関しても、全く同じことが起こっているので、被害に合わないように気をつける必要があるし、政治家と役人は法整備を急ぐべきです。逆に、「NFTの発行により一儲けしよう」と考えている人は、やり方によっては、上のように詐欺罪で逮捕される可能性があることを知った上で、慎重かつ真摯にプロジェクトを立ち上げ・運営する必要があることを覚えておくと良いと思います。
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image by:Tada Images/Shutterstock.com