ウクライナ戦争で“大儲け”のアメリカ。最も利を得たバイデンの胸中

2022.04.22
 

最終的に勝つのはアメリカ

長期化が避けられないロシアとウクライナとの戦争。筆者は、この先、どちらが勝利を宣言しようと真の勝者にはなれないと見ている。

ロシアは悪玉のイメージが確立されてしまった。経済制裁と戦費で国力も弱まる。ウクライナも多くの犠牲者を出し、侵攻が激しかった地域は廃墟と化した。

一番の「利」を得たのはアメリカだ。

バイデン大統領は、2021年9月1日、ホワイトハウスにゼレンスキー大統領を招き、個人的な見解としながらも、NATO加盟に理解を示した。そして仮にロシアに侵攻を受けた場合、全面的に支援すると約束した。その月には合同軍事演習も行っている。

これがプーチン大統領に火をつけたと言っても過言ではない。ロシア軍がウクライナ国境に展開し始めたのはその年の10月である。

そして、バイデン政権は、ロシア軍が侵攻する前に軍事支援を発表したほか、2022年3月16日には8億ドル(1000億円)、そして4月13日にも追加で同額の支援を決定している。

つまり、アメリカが誘導してしまったとも言える戦争で、アメリカの軍需産業は大いに潤ったということだ。

第2は、バイデン大統領自身が、2021年9月のアフガニスタンからのアメリカ軍完全撤退で招いた国際的な信用の失墜をかなり挽回できたという点だ。

今回の戦争で、EUやNATO加盟国の首脳をけん引し、バイデン大統領自身もポーランドを視察するなど、民主義国家群を率いるアメリカのトップとして、ある程度は存在感を発揮できたことは、11月の中間選挙にもプラスに働くだろう。

そして3つ目は、ロシアへの制裁で、アメリカ経済全体が潤い始めたことだ。

ヨーロッパ諸国がロシアへのエネルギー依存を見直す中、石油も天然ガスも自前で賄うことができるアメリカがヨーロッパ向けの輸出を増やせば、インフレとコロナ禍で苦しむアメリカ経済は持ち直すことになる。

アメリカだけでなく中国も、ロシアに対し中立的な立ち位置を維持しながら、大いに得るものがあったと筆者は見る。ロシアを対アメリカの切り込み隊長にできた。ロシアの成功例と失敗例から、台湾侵攻の際のヒントも得られる。

さらに、ロシアが経済的に厳しくなって、中国マネー頼みとなれば、ドル経済圏から人民元経済圏にロシアを組み込むことも可能になる。

出口が見えない戦争は、つまるところ、超大国が「利」を得ることになるのである。

清水克彦(しみず・かつひこ)プロフィール
政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師。愛媛県今治市生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得期退学。文化放送入社後、政治・外信記者。アメリカ留学後、キャスター、報道ワイド番組チーフプロデューサーなどを歴任。現在は報道デスク兼解説委員のかたわら執筆、講演活動もこなす。著書はベストセラー『頭のいい子が育つパパの習慣』(PHP文庫)、『台湾有事』『安倍政権の罠』(ともに平凡社新書)、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)、『人生、降りた方がことがいっぱいある』(青春出版社)、『40代あなたが今やるべきこと』(中経の文庫)、『ゼレンスキー勇気の言葉100』(ワニブックス)ほか多数。

image by: ApostolisBril / Shutterstock.com

清水克彦

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