ロシア国民30万人が出国か。ウクライナ侵略の祖国に見切りをつけた人々

2022.04.24
 

人口増の「奇策」

ただこうした客観的な予測とは正反対に、ロシアの人口を急増させる方法が存在しないわけではない。それはまさに現在進行中のウクライナ東部での戦闘に関連する。ウクライナ側によればロシア軍はドンバス地域、つまりドネツク州とルガンスク州の全領域を支配しようと大攻勢をかけている。ロシアは開戦直前に「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を名乗る親ロ派武装勢力の支配領域を一方的に「独立国家」として承認、ロシアの傀儡である親ロ派武装勢力は先月下旬、ロシア編入方針を示している。ロシアが両州を全面制圧した場合、クリミア半島同様、ロシア併合を強行する可能性は排除できない。国際法的にも違法でウクライナにとっては到底容認できるものではないが、侵攻前の親ロ派領域だけでも計300万人以上の人口を抱えており、莫大な経済的負担を度外視して一方的に併合すれば、一気に相当な「人口増」となることは確かだ。ただ、米欧など国際社会の支援を受けたウクライナ軍の抵抗を打ち破るのは容易ではなく、現時点ではあまり現実味はないが、非合理としか思えない行動様式を示す現在のプーチン政権ならこの「併合シナリオ」を検討している可能性は高いだろう。

国外脱出

さて侵攻直後から、ロシアでは非常事態や戒厳令導入のうわさが流れ、モスクワやサンクトペテルブルクなどの空港や鉄道駅から若者を中心に多数のロシア人が大急ぎで出国した。ますます強権化し、孤立する祖国に見切りをつけたのだ。脱出する国民がどれくらいいるのか。正確な数は不明だが、国外に脱出したロシア人を支援する団体「OKロシアンズ」は、既に30万人がロシアを出国したと推計。厳しい対ロ制裁のため、入国できる国は限られており、隣国フィンランドや、旧ソ連のアルメニア、ジョージア、或いはトルコ、イスラエルなどが主な出国先だが、一部の富裕層は、中東のドバイなどにも移っている。

あくまで推計とはいえ、2ヶ月足らずで30万人という出国者数は尋常ではない。ロシアがウクライナ南部クリミア半島を併合した2014年の年間国外移住者数にほぼ匹敵する。OKロシアンズが出国した1,000人に対して行った聞き取り調査の結果によれば、ロシアを離れた人々の多くは、モスクワなど都市に住む高学歴者で、IT人材が多いほか、自営業、科学・文化・芸術関係に従事する知的労働者の割合が多い。ロシアのIT企業の業界団体は、国外に出たIT人材は3月までに5~7万人としている。これまで見られなかったものとしては、ウクライナの前線に派遣されるのを恐れ、徴兵年齢に達した若い男性が招集前にロシアから退避するケースもあるが、当然ながらその実態は明らかになっていない。

ロシアのジャーナリスト、マーシャ・ゲッセン氏は、「旧ソ連に不気味なほど似ている得体の知れない新たな国に閉じ込められることを恐れ、戦争を繰り広げている国に留まることは、ウクライナ人に向かって爆弾を落としている航空機の中にいるようで不道徳に感じるからだ」(米ニューヨーカー誌)と指摘した。ゲッセン氏は、プーチン氏を批判的に描き国際的に評価される著書『顔のない男』(邦題『そいつを黙らせろ』)の出版後、身の危険を感じ、事実上米国に亡命しており、脱出するロシア人の心情を知り尽くしている。

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