ロシア国民30万人が出国か。ウクライナ侵略の祖国に見切りをつけた人々

2022.04.24
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到底許容することができない詭弁を弄し、ウクライナでの殺戮行為を続けるプーチン大統領。しかしロシア国内では、国の存亡にかかわる深刻な事態が進行しているようです。そんな動きを取り上げているのは、東京新聞の元モスクワ支局長で現在ロシア・ウクライナ担当デスクを務める常盤伸さん。常盤さんは今回、ロシアで国民の「海外脱出ブーム」が加速している事実を紹介しその理由を解説するとともに、プーチン大統領の発言から見て取れる、ある「危険な兆候」を指摘しています。

プロフィール:常盤伸(ときわ・しん)
1961年、静岡県生まれ。同志社大学法学部政治学科卒。名古屋大学大学院法学研究科博士前期課程(政治学専攻)修了。産経新聞社に入社。1994年より東京新聞(中日新聞社)に移る。外報部記者、論説委員、モスクワ支局長、外報部次長などを務め、現在ロシア・ウクライナ担当デスク。2021年から日本国際フォーラム上席研究員。アジア・ユーラシア総合研究所客員研究員も兼任。主要論文は「プーチンの対日戦略」「ロシアにおける『市民社会』の台頭」など多数。

衰退への道をひた走るプーチン・ロシア

ロシアのウクライナ侵攻は開始から24日で2か月。軍事作戦は、プーチン大統領の思惑通りには進まず、ロシア軍の損害も甚大だが、国内ではロシア国家の基盤にかかわるような深刻な事態が進行中だ。人口減に拍車がかかる可能性が高いうえ、国民の国外脱出が加速しているからだ。侵略によってロシアの国力衰退は決定的となったといえるだろう。

人口問題、急激に悪化

戦況や経済制裁の直接的な影響に注目が集まる中で、やや見過ごされがちなのが、ウクライナ侵攻が、ロシアのアキレス腱ともいえる人口問題に及ぼす深刻な打撃だ。

実は、ロシアでは昨年1年間で、既に人口が100万人も減少(約1憶4,580万人)していた。新型コロナ感染による死者の増加が原因で、減少幅はソ連崩壊以降、最悪を記録したのだ。

ロシア政府は、自国産ワクチンを外国に供給し影響力を拡大するワクチン外交に熱心だが、足元では国民の国産ワクチンへの不信感が拭えず、接種率の低迷が改善されなかったからだ。

「偉大なロシア」の復活を目指してきたプーチン氏が、何よりも重視すると公言してきたテーマこそ人口問題だ。プーチン氏は、16年前の第2次プーチン政権発足時から、出生率の向上を優先課題に掲げ、第2子とそれに続く子供の出産に現金を支給するなど、一連の優遇措置を打ち出してきたが、対症療法的な効果しかなかった。結局現在も1人の女性が一生涯で産む子どもの数(合計特殊出生率)は平均で約1.5人にとどまっている。

ロシア軍がウクライナ国境に部隊を結集しつつあった昨年11月30日、モスクワで行われたVTBキャピタルの投資フォーラムでプーチン氏は、いみじくも「今後10年で最大の問題は人口問題だ」と喝破。「人道的な理由、国家の強化、経済的な理由から、人口問題の解決は主要な課題の1つである」と強調していたのだ。

ところが、それから3ヶ月も経たないうちにプーチン氏がウクライナを全面侵攻したことで発動された、前例のない規模の国際的な対露経済制裁は、すでにロシア経済を直撃しており、国民の生活水準の低下は免れない。そうした厳しい状況にあっては、出生率の向上など夢物語に近いというべきだろう。

同フォーラムで、プーチン氏は、ロシアは「人口動態の推移において二つの衰退を経験した。一つは大祖国戦争、もう一つはソ連崩壊後である」と述べた。プーチン氏のウクライナ侵攻は、ロシア史の文脈においても人口激減をもたらした二つの歴史的大事件に匹敵するほどの大事件である。その意味では皮肉にもプーチン氏はロシアの人口減少を決定的にした指導者になる可能性が高いと思われる。

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