ロシアの嘘にも対処。それでも米「偽情報対策委員会」に反発の訳

 

ジャンコウィッチ事務局長は、前職のウィルソン・センターの偽情報研究員として、その懸念を裏付けるような党派的な発言をしてきた。共和党側が主張し民主党側に否定する人が多い情報には、根拠なく偽情報のレッテルを貼った。トランプ大統領に不利な情報は、偽情報の可能性を専門家が指摘したものも、正しいと宣伝した。

例えば、新型コロナウイルスが中国科学院武漢ウイルス研究所から流出したという説は、2020年の米国では共和党議員が主張し、主なメディアは否定していた。ジャンコウィッチ氏によると、流出説は20年4月に反共の法輪功のメディア『大紀元時報(エポックタイムズ)』が公開したビデオから広まった陰謀説だという。

しかし、コットン上院議員はすでに20年2月に、流出説を検証すべきだと主張していたので、流出説の起源に関するジャンコウィッチ氏の主張は誤っている。また、21年5月以後は米国の主なメディアも、流出説に一定の根拠があると認めている。

ロシア発の偽情報の疑いが濃厚なのに、ジャンコウィッチ氏が正しいと宣伝したのは、トランプ大統領に関する「スティール調査書」だ。この文書は英国の情報機関OBが作成し、トランプ氏が不品行や贈賄のためロシアに弱みを握られている証拠として、大統領就任直前から報道されてきた。

しかし、ロシアの情報活動に関する西側の専門家は当初から、スティール調査書が米国政治を混乱させる工作に利用されたのではないかと懸念していた。2020年には調査書の信頼性を疑わせる情報が、米国の議会と政府によって公開された。

それでもマヨルカス国土安全保障長官は5月1日、CNNテレビのインタビューで、ジャンコウィッチ氏は名高い専門家で政治的に中立だと述べた。偽情報ガバナンス委員会の任務については、「何をして何をしないのか、よりよく説明すべきだった」と認めたものの、その場でうまく説明できたとはいえない。

何をするのかというと、「敵対的な外国や犯罪組織の偽情報の脅威に対処するための最善慣行を集めて、従来からこの脅威に対処してきたオペレーター(運営担当者)に広める」のだという。オペレーターとは誰のことか説明しなかったが、おそらくソーシャルメディア企業のことで、各社に偽情報の削除やアカウントの凍結を要請するのだろう。

マヨルカス氏は偽情報ガバナンス委員会が国民を監視しないと強調したが、それでも偽情報の拡散を検知できるのかは説明しなかった。

「もしトランプ氏が再び大統領になった場合、彼の指揮下に偽情報ガバナンス委員会があってもいいのか」という質問には、マヨルカス氏は答えなかった。

これほど説明が下手なのは、バイデン政権・民主党の関係者が偽情報という言葉を使うと、「自陣営に不利な情報」という意味を帯びることに、マヨルカス氏らが気づいていないからだろう。

むろん、トランプ氏ら共和党員がフェイクニュースという言葉を使っても、同じ意味を帯びるのだが、彼らはそれをわかったうえで、団結のために口にしている印象が強い。(静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授 西恭之)

image by: Shutterstock.com

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