一方で、日本は春画を厳しく規制
国連が日本の漫画表現を批判したのは今回が初めてじゃない。2016年にも日本の漫画表現を問題視。
女子差別撤廃委員会の報告書では、
日本ではポルノ、ビデオゲーム、漫画などアニメが、女性や少女への性的暴力を推進していると指摘、とくに国連特別報告者は日本を、「バーチャルな子どもを性的搾取する表現の主要製造国」
とまで読んだ。
このような国連の批判に漫画研究者の藤本由香里氏は反論。
「日本では女性が主体となった性表現が、男性向けのそれと同じくらい発展していることが、他国とは大きく違う特徴だ。
その中には当然、『性暴力』表現も含まれる。即ち、日本において『性暴力』表現を禁止することは、これまで営々と築かれてきた女性たちによるオールタナティブな性表現に対してもNOを突きつけることになるのだ。
表現を『禁止』することによっては現実は変わらない。むしろ『性は危険でもありうる』ことを伝えることこそが現実を変えると信じて女性作家たちは表現してきた。その営為を止めてはならない。
国連は、表現を問題にすれば、『現実の問題を解決する』ことをかえって阻害することを認識すべきだ」(『国連が批判する日本の漫画の性表現 「風と木の詩」が扉を開けた』BBC NEWS JAPAN、2022年3月16日)
しながら、日本社会が長年、絵の中の性表現について実際に規制してきた事実に触れなければならない。 浮世絵の春画だ。
春画は、ロンドンをはじめ、欧米で大規模な展示が成功して初めて、日本でも大々的に展示会が2015年に開かれるようになった。春画はカップルの情事の横に子どもが描かれていることが珍しくない。しかし、そのことは当時としては日常的な一コマだった。
ただ、そのような絵は、現代の価値観に照らし合わせ、展示会で外されることが少なくなかった。
春画は自主規制にとどまらず、実際に公権力により規制。2015年には、春画の画像を掲載したとことがわいせつ図画頒布罪にあたるとして、「週刊ポスト」「週刊現代」「週刊大衆」「週刊アサヒ芸能」が警視庁により口頭指導を受けていたことがわかっている。
背景にある「漫画至上主義」
今回の問題に背景にあるものは、「表現の自由を守る」という問題であるとか、そのような高らかな社会的使命の問題があるわけではない。
実際には、漫画であるとかアニメであるとか、「日本らしい」現代的なコンテンツの“表現の自由“が守られれば良いという、至極、短絡的なもの。
それ以外のコンテンツ、あるいは、例えば春画、もしくは広義的な“表現の自由“についての大きなテーマの問題についてまったくもって無関心である日本人の姿がそこにはある。
(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年5月22日号より一部抜粋)
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