名前も悪い「アベノミクス」最大の問題は、“批判を許さぬ空気”の醸成だ

2022.06.21
 

岸田首相は、就任時に「アベノミクス」への「個人崇拝」を断ち切ろうとするような姿勢を見せた。「市場に任せればすべてがうまくいく」という、旧来の資本主義が生んださまざまな弊害を乗り越えるために、「いわゆる新自由主義的政策は取らない」と大見えを切ったのだ。

首相は、「アベノミクス」が大企業と富裕層を優遇して潤した一方で、中小企業や個人には利益が行き渡らず、格差を拡大させたと認識し、より経済成長の果実を個人レベルまで「分配」する政策を実行することが「新しい資本主義」だと説明した。ただし、首相が、「アベノミクス」を「新自由主義的政策」とした認識は間違っている。

繰り返すが、「アベノミクス」は実施当初、異次元の「金融緩和」「公共事業」で輸出産業の業績を回復させて、高い支持を得た。その背景には、「失われた20年」と呼ばれた長年のデフレとの戦いに疲弊し切って「とにかく景気回復」を望んでいる国民の姿があった。

売り上げが増えなくても、輸出企業の業績がとりあえず上がる「アベノミクス」は、この国民のとりあえずデフレとの戦いから抜け出して一息つきたいという感情に非常にマッチした。それが、高い支持を得た理由だったと思う。しかし、「金融緩和」「公共事業」は、あくまで、国民をデフレとの戦いから一息つかせるための、「その場しのぎ」でしかなかったはずだ。

本格的な経済回復には、「第三の矢(成長戦略)」が重要なのだが、さまざまな業界の既得権を奪うことになる規制緩和や構造改革は、内閣支持率低下に直結するので、安倍政権にとってはできるだけ先送りしたいものとなった。安倍政権が「成長戦略」と考えた数々の政策は、多かれ少なかれ、今までの政権でも検討されてきたものだ。従来型の「日本企業の競争力強化策」で、基本的に誰も反対しない政策案の羅列でしかない。あまり効果が出ないのも無理はないことだった。

結局、安倍長期政権の間、経済は思うように復活しなかった。斜陽産業の異次元緩和「黒田バズーカ」の効き目がなければ、更に「バズーカ2」を断行し、それでも効き目がなく、「マイナス金利」に踏み込んだ。これは「カネが切れたら、またカネがいる」という状態が続いた。新しい富を生む成長産業が生まれず、なにも生まない斜陽産業を救い続けるだけだったのだから、仕方がないことだ。これは、かつての自民党政権で何度も繰り返されたことと全く同じだったのだ。

これは、「アベノミクス」は、行政改革や規制緩和で社会・経済の構造を変える「新自由主義」とはまったく違うものということを示している。金融緩和・公共事業で株高・円安に導き輸出産業に一息つかせるための旧態依然たる自民党の伝統的なバラマキ政策であり、違いは、つぎ込むカネの量が異次元だったというだけだったのだ。

岸田首相の「アベノミクスは新自由主義」という認識は間違っているわけだが、次の疑問がわいてくる。自民党の伝統的なバラマキを異次元の規模で実行したのに、どうしてかつてのような効果がなかったのだろうか。

例えば、高度経済成長期の真っただ中、池田勇人政権の経済政策は「国民所得倍増計画」だった。今の「岸田派(宏池会)」の源流が「池田派」だったことから、池田元首相にあやかって岸田首相が「資産所得倍増計画」と打ち出したことから、再び脚光を浴びたこの政策は、今なら荒唐無稽と切り捨てられそうだが、実際は計画以上の成果を挙げた。興味深いのは、元々この政策は「月給二倍論」という名前だったことだ。つまり、現在政府がさんざん苦労している「賃上げ」が2倍以上の規模で実現したということなのだ。

一方、安倍政権期、首相や麻生財務相・副総理など経済閣僚が、アベノミクスで積みあがる利益を内部留保にしないで「賃上げ」するように何度も要請したが、成果を挙げられなかった。企業は利益を得ても、それが個人に降りてこないと岸田首相に批判している通りだ。

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