名前も悪い「アベノミクス」最大の問題は、“批判を許さぬ空気”の醸成だ

2022.06.21
tkn20211115
 

各地で行われる講演等で、現在もアベノミクスの成果を強調し続けている安倍元首相。しかしながらこの経済政策により、国民の生活が改善したとは言い難いのが現実ではないでしょうか。そんなアベノミクスを一貫して失敗と主張し続けてきたのは、立命館大学政策科学部教授で政治学者の上久保誠人さん。上久保さんは今回の記事中にその「証拠」を列挙するとともに、効果が上がらなかった理由を解説。さらに岸田首相がこれまでに行ってきた財政出動の拡大についても、アベノミクスと何ら変わることがないとの批判的な見方を記しています。

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)
立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

急激な円安を生んだアベノミクスの大罪。日銀は誰のために円安政策を続けるのか?

円相場が急落し、20年4か月ぶりに1ドル=135円の大台を突破した。今年3月頃からの円安は止まる気配がない。しかし、日本銀行は金融政策決定会合で異次元緩和の継続を決定した。黒田東彦総裁は、「最近の急激な円安は経済にとってマイナス」との認識を示したものの、輸出企業の利益増加などメリットもあるとし、金融緩和を継続して景気を下支えする考えを示した。

一方、欧米の主要な中央銀行は、日銀とは真逆の方向に動いている。「主要6中銀」のうち、日銀以外の米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行、英イングランド銀行、スイス中央銀行、カナダ中央銀行が利上げを決定した。

加えて、豪州、インド、ブラジル、サウジアラビア、チェコ、ポーランド、アルゼンチン、メキシコ、南アフリカ、韓国、ハンガリーなどの中銀も次々と利上げに動いている。日銀だけが、世界の利上げの潮流から取り残されている。

日銀の独自路線は成功するのか。私は、第二次安倍晋三政権が登場した2012年12月から、一貫して「アベノミクス」を失敗だと批判してきた。今回の量的緩和継続も成功しないだろう。円安が進行し、物価高騰に国民は苦しみ続けることになる。

「アベノミクス」は実施した当初、国民から高い支持を受けた。円高・デフレ脱却に向けて2%の物価上昇率を目標として資金の供給量を劇的に拡大する異次元の金融政策「黒田バズーカ」を断行した「第一の矢」金融政策、過去最大規模の100兆円を超える巨額の財政出動が断行した「第二の矢」公共事業によって、為替を円安に誘導し、輸出企業の業績が回復したからだ。

だが、その回復は、1ドル=70円台から120円台の円安となって、輸出量が増えないのに、利益が増えたからにすぎなかった。既に、日本企業は工場を中国・アジアなど海外に移転していたから。円安のメリットを生かして輸出を増やそうとしても、そもそも工場が日本国内に存在しないのだから、増えるわけがない。

現在も、海外に移転した工場は、日本国内に戻ってはきてはいない。黒田総裁が下支えしようとする輸出企業は国内に存在しないのだ。存在しないものの利益を増やそうとする量的緩和政策に、何の意味があるのだろうか。

量的緩和政策による円安でメリットがある産業はもう1つあり、それは「観光業」だ。観光業は経済効果が大きな産業である。観光に関連する産業は裾野が広い。観光で利益を得るのは、直接携わる旅行業や旅館・ホテル業、運輸業、レジャー施設などだけではない。農林水産業や製造業、建設業、商業、サービス業などの産業に対しても、直接、間接の経済波及が広がり、雇用拡大が期待できる。

特に、「インバウンド」と呼ばれる海外からの観光の増加は、経済効果を劇的に増加させる。観光業が、海外の外国人観光客に日本の観光地を買ってもらう「輸出産業」に大化けするからだ。

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