名前も悪い「アベノミクス」最大の問題は、“批判を許さぬ空気”の醸成だ

2022.06.21
 

2019年の外国人観光客は3,188万2,000人だった。「インバウンド消費額」とも呼ばれる外国人観光客の消費額は4兆8,113億円。コロナ禍の前、日本の観光業は急成長していた。しかし、コロナ禍でインバウンドは突然途絶えてしまった。

日本は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる入国制限措置で、約2年に渡って海外からの門戸を閉ざした。外国人観光客は90%以上減少したが、6月10日から98か国・地域からの観光客の受け入れを再開した。

観光業の復活は、日本経済の回復に大きく資すると期待される。だが、門戸の開放は添乗員付きのツアー客に限定されるなど、いくつかの制限が継続されている。観光業がコロナ禍以前にどこまで復活するかは不透明である。

日本経済と観光業に関しては、より本質的に重要な問題がある。コロナ禍以降の観光業について想起されるのは、中止と再開を繰り返した「GoToトラベル」事業を巡る混乱だ。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックで海外からのインバウンドが途切れる中、安倍政権(当時)は国内観光だけでも促進しようとする「GoToトラベル」の実施にこだわり続けた。後継の菅義偉政権も、何度もその再開を模索した。その姿勢は、国民から厳しい批判を浴びた。

それならば、観光業なしで農林水産業や製造業、建設業、商業、サービス業などの産業を動かす経済政策をとればいいではないかと思うところだ。ところが、事が深刻だったのは、それができない地方が多かったことだ。

地方が衰退しきってしまって産業が衰退し、観光業くらいしか残っていない。だから、コロナ過で地方経済を支えるには「GoToトラベル」しかなかったのだ。地方に残る、美しい風景や神社、仏閣、城郭といった歴史的建造物などの「遺産」に頼るしかなくなったのだ。

これは、歴代政権の無策の結果である。特に、「アベノミクス」が典型的だが、中途半端に斜陽産業を延命させる巨額のバラマキを行う一方で、新しい産業を育てる成長戦略が欠けていたからである。

「アベノミクス」の最大の問題は、政策の是非そのものよりも、政策に対する批判を許さない「空気」を生んだことだろう。その結果、健全な批判がないまま、その効果が輸出産業の延命にとどまり、地方の衰退が進んだことをみえなくしてしまった。日本の悲惨な現状は、コロナ過を通じて国民が痛感することになったが、それでも政策の修正はなかなかできないでいる。

「アベノミクス」への批判を許さない空気は、「アベノミクス」という安倍元首相の名前を冠した政策であるからだ。「アベノミクス」に対する批判は、元首相に対する批判そのものになってしまう。政治家も官僚も、冷遇を恐れて元首相に「忖度」し、批判を避けた。それどころか、「アベノミクス」に都合のいい数字ばかりを取り上げて、「アベノミクス」の成果が出た形にするように辻褄を合わすことばかりしてきた。

加えて、日本社会に根強く残る「官僚の無謬性神話」も悪い影響を与えた。この政策を実行する黒田日銀総裁は、筑波大付属駒場高校、東京大学、大蔵省、財務省財務官、アジア開発銀行総裁、日銀総裁という華麗なる経歴の持ち主だ。「エリート官僚は絶対に間違わない」という無謬性神話が残る日本社会の中でも、超エリートという存在だ。

極端にいえば、黒田日銀総裁は、人生において間違いを認めたことがないのではないか。そして、金融緩和政策についても、絶対に間違うことはないと信じているのではないか。また、総裁の周囲にも、産業界やメディアにも、総裁をはっきりと批判ができない「空気」が充満しているのではないか。

その結果、「アベノミクス」は修正されないまま、効果がないと多くの国民が気づきながら延々と続いてきた。それは、経済政策が「個人崇拝」「官僚の無謬性」で決まるという、まるで全体主義国家のような状況だったといえるのではないか。

print
いま読まれてます

  • 名前も悪い「アベノミクス」最大の問題は、“批判を許さぬ空気”の醸成だ
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け