壮大なムダ。東洋大ZOOM講演会でゼレンスキー大統領が見せた「怒り」の訳

2022.07.07
 

そもそも、ゼレンスキー大統領に「率直」な質問をぶつけることを避けることは、ウクライナ側が望んだことなのだろうかという疑問がある。私の経験では、欧州の方は議論が好きだ。講演会では、フォーマルな講演よりも、質疑応答をメインと考える。講演の内容も、日本のように質問のスキを与えないように必死に穴を隠そうとするのではなく、むしろ議論を喚起するようなポイントをあえて置くものだ。

ゼレンスキー大統領が、私のゼミ生が考えるような疑問に答えられないわけがない。大統領は、日本の学生との対話を楽しまれたはずだ。

結局、ゼレンスキー大統領の講演会は、無難に終わったことで成功したと、日本では報道されるのだろう、しかし、講演会に実際に出席した者としていえば、なんのために開催されたのかわからないというのが、率直な感想である。

そもそもだが、この講演会への参加を、上久保ゼミは当初、断られたのである。この講演会の開催は、私が約2週間前に偶然、わが校のウクライナ人学生から耳にしたことで知ったが、わが校の国際部経由で、東洋大学に参加を打診したところ、最初に来た返事は「NO」であった。

国際部からは、わが校の参加は、BKC(びわこ草津)キャンパス一か所で、ウクライナ人学生に限定して参加と決まったという。「他校のオンライン参加はウクライナ人学生限定」というのは、東洋大学の意向だという説明もあった。ただ、私は東洋大学と直接やりとりはしていないので、真偽はわからない。

しかし、私は開催までの間の経緯から、この講演会は「ゼレンスキー大統領が、ウクライナ人学生に戦争への協力を呼びかけるのに、日本の大学が場所を貸すだけではないのか」という疑問を強く持つことになった。

また、日本人であろうとウクライナ人であろうと、国籍にかかわらず、日本の大学に所属する以上、「日本の大学の学生」である。彼らが戦争に協力させられるのは、日本の大学教員として絶対に看過できないことである。だからこそ、私のゼミの参加にこだわった。

その後、再度参加を申し入れた結果、国際部が非常に粘り強く交渉してくださり、参加ができたのである。結果的に、松山大学など他大学でも日本人学生が多数参加できた。ゼレンスキー大統領から、ウクライナの学生に戦争協力を求める発言はなく、日本人学生との対話も実現した。だが、逆にいえば、それでこの講演会は意味あるものだったのだろうか。

1つ付け加えれば、この講演会は「ウクライナ語と日本語の同時通訳」で行われた。その結果、講演会の参加は、ウクライナ人と日本人にほぼ限定された。私は、学部のゼミと大学院生を合わせて、27人の留学生を担当している。しかし、そのうち参加できたのは、前述の通り日本語が理解できる3名のみであった。

ゼレンスキー大統領は英語ができる。日本にいるウクライナ人学生も、基本的に英語ができる。大統領に英語で講演していただき、日本語の同時通訳とすれば、留学生が多数参加できたはずだ。

ゼレンスキー大統領自身が、講演会で「日本の皆さんは、ウクライナの立場を理解し、支援してくれている。しかし、アジアにはウクライナの立場を理解しない国がいる」と述べていたのだ。

私は常々、日本の大学の使命として、さまざまな事情で対話ができない国からの留学生同士が、対話をし、理解を深めていく場を作ることだと主張してきた。日本の大学が、ゼレンスキー大統領を支援すべきことがあるとするならば、それは大統領がアジアを中心とする留学生と対話できる場を設けることだったのではないか。

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