壮大なムダ。東洋大ZOOM講演会でゼレンスキー大統領が見せた「怒り」の訳

2022.07.07
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7月4日、東洋大学白山キャンパスで行われ、全国14の大学にもリアルタイム配信されたゼレンスキー大統領のオンライン講演会。世界中が注目する指導者から直接メッセージを受け取った参加者たちは、どのような思いを抱いたのでしょうか。今回、そんな講演会の模様や舞台裏を明かしているのは、指導する学生たち28名と視聴する機会を得た、立命館大学政策科学部教授で政治学者の上久保誠人さん。上久保さんは記事中、イライラした表情を見せたゼレンスキー大統領の様子や、講演後に学生たちから挙がった大統領に対する質問や疑問を紹介するとともに、自身が抱いた率直な感想を記しています。

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)
立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

当たり障りない「ゼレンスキー講演会」に参加して感じた“壮大な無駄”

ウォルディミル・ゼレンスキー・ウクライナ大統領のオンライン講演会が、東洋大学白山キャンパスで開催された。「ウクライナから留学している学生と日本人の学生にメッセージを伝えたい」というゼレンスキー大統領の意向を受けた「在日ウクライナ大使館」の提案に東洋大学が応えた。

講演会には、全国14大学もオンラインで参加し、立命館大学からはBKC(びわこ草津キャンパス)でウクライナ人学生が参加し、OIC(大阪いばらきキャンパス)で政策科学部「上久保ゼミ」の学生28名(日本人25人、マレーシア人、中国人、韓国人各1名)が参加した。

上久保ゼミは、過去「香港民主化運動家・周庭氏」や「香港中文大学」などとのオンラインディベートを多数経験してきた。今回は、東洋大学以外の会場からの質疑応答は許可されなかったため、視聴するだけの参加となった。

だが、ウクライナ戦争を指揮しているゼレンスキー大統領と、オンラインとはいえ空間・時間を共有した。大統領の顔を見て、生の声を聴くことだけは、得難い経験となったと多くの学生が感想を述べていた。貴重な機会を提供してくださった東洋大学の皆様の尽力に、まずは感謝を申し上げたい。

ゼレンスキー大統領講演会(筆者撮影)

ゼレンスキー大統領講演会(筆者撮影)

18時に、ZOOMのスクリーンにゼレンスキー大統領が現れた。大統領の講演は20分間の予定だった。だが、冒頭、主催者側の挨拶が約5分間続いた。その間、大統領はただ座っていた。挨拶は同時通訳されず、大統領にはただ日本語の「音」が聞こえていたのだろう。

私は気づかなかったのだが、講演会の後に提出させたゼミ生のコメントの多くに指摘されていたことがある。開会挨拶が3分ほど経過した時、ゼレンスキー大統領が明らかにイライラした表情をした。「まだ、始まらないのか」と怒ったのだとゼミ生たちは動揺した。

ゼレンスキー大統領が、ロシアの東部ウクライナに対する大攻勢に徹底抗戦を続けている。この日も、ロシアがルハンスク州のほぼ全域を制圧したという報道が流れていた。ウクライナ軍が、最後まで死守しようとした主要都市の1つシチャンスクからの撤退を表明した。

ロシアが、ドネツク州を含む東部ドンバス地方全域の支配を目指して、攻勢を強めている最中に、この講演会は行われているのだ。分刻みのスケジュールで戦争を指揮しているゼレンスキー大統領の貴重な「5分間」を無駄に過ごさせたことに対して、日本側は配慮がなさすぎた。

もちろん、講演会のプログラム上は、18時~18時5分が主催者挨拶となっており、問題はない。だが、それならば大統領には18時5分に登壇してもらうべきだった。

ゼミ生の中には、「この無駄な5分間に、ゼレンスキー大統領が開戦以降会えていない奥様とお子さんに電話をしてもらったらよかったのではないか」という意見を書いた者もいた。それくらい、大統領に失礼なことをしたと、多くのゼミ生が感じた時間だった。

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