壮大なムダ。東洋大ZOOM講演会でゼレンスキー大統領が見せた「怒り」の訳

2022.07.07
 

ゼレンスキー大統領の講演は、約15分間だった。だが、日本語の同時通訳が入ったため、実質的には10分間も大統領は話していない。内容も、すでに報道されている通りだ。

「ロシアは戦争を望み、ウクライナは平和を望んでいる」「ウクライナは平和のために戦っている」「ロシアの侵略によって、ウクライナ人にとって平和は思い出になった」「平和を取り戻せる唯一の時期は今だ」などだ。

ウクライナ戦争が開戦してから4か月が経過した。停戦がみえない泥沼の状況の一方で、スウェーデン、フィンランドのNATO加盟が決まり、ウクライナのEU加盟も動き始めた。国際秩序は、4か月に劇的に変化した。ゼレンスキー大統領から新しい発言を期待したが、それはなにもなかった。

その後の質疑応答は、事前に準備されていたと思われる、東洋大学を中心とするウクライナ人学生たちと、日本人2名が質問した。質問は、安全保障や国際政治経済に関する微妙なものはなく、一言でいえば、文化交流に関するものに終始した。

ゼレンスキー大統領は、日本で学ぶウクライナ人学生に対して、「日本で学ぶことは、ウクライナの破壊された教育空間を守ることになる。戦争が終わり、復興の段階となったら、教育の再生に貢献してほしい」と呼びかけた。

私は、講演会の事前準備の段階から、東洋大学の会場以外からもゼレンスキー大統領に質問をする機会を与えてほしいと要望し続けた。

私は、一問だけでもいい、事前に質問を提出して内容を確認してもらってもいいと訴えた。それは、ゼミ生たちの人生にとって、他では得難い学びの機会を与えることになる。また、ゼレンスキー大統領にとっても、東洋大学だけでなく、日本全国の学生が講演会に参加しているということがわかり、励みになる。日本の学生に対して、大統領がよりよい印象を持ってくれることにもなる。

だから、厚かましい要望だとわかっていたが、私は質疑応答を東洋大学以外に公開することにこだわり、最後まで粘った。だが、すでに東洋大学とウクライナ大統領府の間で「質疑応答については、東洋大学会場に限る」と決定済みと、断られた。東洋大学側の立場は重々承知しており、批判するつもりはないが、どう考えても、一問くらい他会場に開放してもよかったと思うので、残念なことだった。

講演会終了後にゼミ生に提出させた書類には、決して答えはもらえないが、ゼレンスキー大統領に対する質問、疑問が多数書いてあった。いくつか紹介する。

「ウクライナ国外にいる避難民に対して、現在ウクライナ政府はどのような支援をしているか」

「ロシアは戦争を望み、ウクライナは平和を望む。しかし、戦争は続く。どうしたらいいと考えるか」

「ウクライナ戦争の終結の仕方として、ウクライナが降伏するか、ロシアが降伏するか、和解するかがあるが、どうなってもロシアとの関係はよくなることはない。その場合、西側諸国に守ってもらうことになると思われるが、そのデメリットはないのか」

「ウクライナがNATOと協力すれば、戦争は激化する一方ではないか」

「ウクライナ側に1つもプロパガンダがないと、どうして言い切れるのでしょうか」

「ウクライナがNATOにずっと加盟できなかった理由はなんですか」

これらは、おそらく、日本全国の若者が思っているだろう率直な疑問であろう。それを大統領にぶつける場があってもよかったのではないかと思う。

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