ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナ。一日も早い停戦実現が望まれますが、具体的にはどのような話し合いや働きかけが行われているのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、ウクライナ紛争の調停・仲裁役として、実際に顔を合わせた各国の調停官たちの多くが挙げる「意外な国の名」を紹介。さらにウクライナの戦後復興がどのようになされるべきかについての持論を記しています。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ
すでにウクライナ紛争後を見据える欧州とトルコ
本来ならば先週土曜日には東京に戻っているはずだったのですが、予想外の展開になり、今週もまだドイツにおります。ただ場所をフランクフルトに変えたこともあり、少しまた展開が変化しました。
しかし、紛争調停官という仕事柄、あまり明らかにしていないスケジュールを知られているのは好ましくないと思うのですが、どこからもなく今週も欧州にいるらしいと聞きつけて、各地からいろいろな人たちが会いに来ました。
まずは主に欧州にいる調停グループのメンバーがフランクフルトに集結しました。そのうち数人は利益相反の恐れがあるということで、直接的なウクライナ紛争の調停には携わらないとのことでしたが、今後の方針についていろいろと意見交換・議論ができました。彼ら・彼女たちには、他の案件(チュニジア、エチオピア、南スーダン、ミャンマーなど)でのリードを取ってもらうことになりそうです。
今回、臨時に開催したこの非公式会合ですが、いろいろな議論の内容を総括してみてわかったのは、【いかにロシア・ウクライナ間の停戦調停を進めるべきか】という点についての議論はもちろん激しく行い、いくつかのシナリオを作りましたが、皆の関心事は主に【ウクライナでの紛争が何らかの形で終結または停止したあとの戦後復興と社会や関係の再構築】問題に充てられていました。
「ロシアをいつまでも国際社会から孤立させておくのは危険だ。いかにreintegrateするかの策を練らなくてはならない」
「ウクライナの再興を実施する際、どれくらいのタイムスパンで見るべきか。また再興は“どのレベル”まで進めるかについての案を提示しなくてはならない」
「国連および国際機関は支援のよい受け先になるが、イラクのケースのようにmulti-stakeholderが絡み、その中心に国連の専門委員会を据えるのは、活動や資金の透明性という観点から望ましくない。アフガニスタン復興会議の日本政府のように、どこかの政府が音頭を取って支援の調整役の任を担い、国連はそのサポートをする形式が望ましいのではないか」
「支援を届けても、本当に必要とする人に届かないケースが目立つ。当該国のロジスティクスと配送に頼り切るのが一つの理由だが、この配送の部分まで支援部隊がしっかり管理できるような仕組みづくりが必要」
というように、すべて紹介しきれませんが、多くの意見はPost-conflictに向けられていることが分かります。
これらの内容についてしっかりと想定を練っておき、迅速な展開方法を模索しておくことは必要ですが、これらが日の目を見るのは、やはり“現在進行形の戦争・紛争が終わること”が先決となります。
そこで答え合わせが必要なのが、【誰を(どの国を)調停・仲裁役に立てるか】という内容です。
以前、調停を担当したナゴルノカラバフ紛争の場合、アゼルバイジャンの背後にいるトルコ(エルドアン大統領)と、アルメニアの背後にいるロシア(プーチン大統領)を最終的な調停役に立て、4か国の間で停戦合意と平和維持部隊の配置を決めるに至りました。
この仕切りについては、米国政府や英仏政府からはクレームが付けられましたが、今回のロシアによるウクライナ侵攻が勃発するまでは、もろもろの小競り合いはあったものの、比較的事態は安定していたのではないかと思われます(諸説ありますが)。
今回のウクライナでの紛争の場合、ロシアは当事者であるため調停役には使えないのですが、トルコについては、すでに何度か試みられているように、適任である可能性はあります。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ