その典型例はイラクでしょう。アメリカ政府の方針と国連の諸機関の方針、そして“関係国の利害”が絡み合う独特の設えゆえに、汚職が蔓延り、支援が届けられる必要がある人口に届けられないという悪循環が明白になっただけでなく、支援国それぞれが石油利権の争奪戦に明け暮れ、結局、イラクは復興されるどころか、サダム・フセイン体制時代よりもイラクは分断され、治安が悪化する事態になり、我先にと駆け付けた各国は次々とイラクから去っていくことになっています。
その後に来たのが、ISなどのテロリスト集団とイラン系の勢力、そしてそのイランを支えるロシアと中国で、欧米各国もUNも見る影もありません。
日本はいろいろと努力して尽力してきたと見られており、その寄り添う姿勢はアフガニスタンでもイラクでも高く評価され感謝されていることは明言しておきたいと思います。
では、【ウクライナの戦後復興支援】を主導するのはどのような国・組織であればいいでしょうか?
今回、集ったグループの共通認識としては、【残念ながら、国連ではない】ということです。
本来そのような役割を果たすべきだと考えますが、事務総長による調停は遅きに失したと言わざるを得ず、ロシアからもウクライナからも相手にされないという状況から判断すると、戦後復興支援を主導する立場には向かないということです。
支援の実施を行うという大事な役割はありますが、やはり軸になるのは難しそうです。
そして何よりも今回のロシアによるウクライナ侵攻を受け、ロシアが常任理事国の一つであり、国連安全保障理事会が事実上麻痺する事態になっていることから、ロシアに対する戦後復興支援というウルトラCでも繰り出さない限りはロシアは賛成せず、結局、支援策はすべてことごとく葬り去られることになるでしょう。
では【アメリカ】はどうでしょうか?
これも共通認識ではNOでした。クリントン政権やブッシュ政権ぐらいまでのアメリカであれば、このような支援を主導する任を担ったでしょうが、アメリカの海外展開の再考を主導したオバマ政権の流れをくむバイデン政権下では、先のアフガニスタンとイラクにおける大失態の反動から、どこかの国の戦後復興支援を主導することはないと考えます。
ゆえにアメリカは今、ポスト・ウクライナを考える際、その責務を欧州に押し付ける算段をしているようです。お金も口も出すでしょうが、責任は取らないというスタンスのように思われます。
実際にどのような形式になるかは、【どのように今回のウクライナでの紛争が終結するか】によりますが、ウクライナの戦後復興支援は非常に長いタイムスパンで考える必要がありますが、コロナ禍に苦しみ、今回のウクライナでの紛争とロシアへの制裁措置の余波で、世界的な物流停滞と食糧危機、エネルギー価格の高騰といった悪循環に各国が苦しむ中、果たしてどれだけの国がウクライナと二人三脚で復興支援のレースを走ることが出来るか、非常に微妙な感じがします。
イラクやアフガニスタンのケースとは違い、日本政府は支援を主導するような立場を取りづらくなったかもしれません。それでも、個人的には、すでにG7の流れに沿ってウクライナに寄り添う覚悟をしたのならば、大きな役割を果たしてもらいたいなあと願ってしまいます。その日本も経済的なスランプに陥っていますが…。
予定外に2週間、欧州に滞在することになり、久々に対面で調停グループの仲間たちと議論が出来たことはとても収穫が多かったと思います。一刻も早く、ウクライナのみならず、エチオピアやミャンマー、南スーダンやチュニジアなどで起きている案件の解決に向けて、皆で尽力できるといいのですが…。
以上、国際情勢の裏側でした。
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