ウクライナ戦争の「仲裁役」は誰?各国の調停官が挙げる意外な国名

 

ただ、皆さんもご存じのように、トルコはNATOメンバーでもあることから、果たしてロシアがトルコを仲裁者と認めるかは分かりません。

これまでのイスミールやイスタンブール、アンカラで開催されたロシアとウクライナの停戦に向けた協議も、トルコは場を提供しただけで、話し合いの場には入っていません。

また先日、ロシア艦隊による黒海の封鎖の際も、トルコは【イスタンブールにトルコ・EU・ロシア・ウクライナからなる運航の管理組織を作ってはどうか】と提案しましたが、外されたアメリカが同意しないのは容易に理解できるとしても、行き詰まりを打開するきっかけになるかもしれないアイデアに対し、肝心のウクライナは「事前に相談を受けた内容ではなく、その実効性には疑問」とはねのけた経緯があります。

トルコとNATOについては、最近までフィンランドとスウェーデンの新規加入問題を巡ってひと悶着を演じたわけですが、これもまたトルコの調停役としての適格性に疑問符を与える結果になっています。

一応、トルコの戦略・動機については【クルド人問題を巡ってEUとの駆け引きを行った(そしてほぼ要求を受け入れさせた)】と考える意見が多く、私もそう考えますが、別の見方をする専門家もいます。

それは【ロシアへの秋波を送ろうとしたのではないか】、【ロシアとの特別な関係を印象付けようとしたのではないか】という見方です。

結果としては、プーチン大統領には届かず、180度の方針転換でクルド人問題とシリアへの越境攻撃への暗黙の了解を取り付けたのですが、トルコが全会一致の法則を逆手に乗って寝そべったことで、NATOの注意がそちらにも削がれることになり、対ウクライナ支援が滞る結果になったという見方もあります。

実際にどのような状況があったのかは、また後日の検証番組的なもので語られるのでしょうが、一つ言えることがあるとすれば、ロシアにとってトルコは、【パーフェクトではないが受け入れ可能な調停役である】ということのようです。受け入れ可能にするための条件の一つが【ウクライナサイドにも受け入れられること】ということですが、現時点ではまだその“信託”は得られていないのも事実です。

こんな話をしているときに、どこから聞きつけたのか、トルコ外務省の友人ご一行が現れ(「たまたまドイツで会合があった」そうですが)、別途会合を持つことになりました。

そこで思い切り先ほどのことについて尋ねてみると、笑いながら

「トルコはNATOのメンバーだが、アメリカからも欧州からも距離を置き、議論や方針があまり欧米中心の一方的なものにならないようにするための防波堤の役目を果たしていると思ってほしい」

「クルド人問題が国家安全保障上の懸念としてずっと存在していることは明白であり、その自衛のための権利まで阻む意見や姿勢には断固反対せざるを得ない」

「ロシアとはいろいろと考えが違うこともあるが、つかず離れずの戦略的なパートナーと考えている。ロシアも同じだろう」

「ウクライナは、トルコにとってはある意味隣国であり、今回のロシアとウクライナの問題は、トルコにとっては自国の安全保障問題でもある。トルコは、ウクライナおよびロシア双方につながりがあり、どちらの言い分も理解でき、あえてどちらかの味方をするわけではない。依頼されれば、調停の任に就く用意はある」

「欧米諸国が挙ってロシアの締め出しに動き、制裁を課し、孤立を目論んでいることには賛同できない。トルコに対するケースが証明しているように、一方的な制裁は必ずしも効果的ではなく、その目的を達成することはない」

「トルコはロシアにも門戸を変わらず開き、おかげで多くの新規投資がもたらされたし、トルコは物資の輸送や航空機のロシア領空通過などの問題も一切ない。トルコ航空は変わらずロシアの都市に飛び続けるし、アエロフロートもトルコにアクセスできる。話し合いが大事だとか、いろいろと批判するのであれば、門戸を閉じるのではなく、対話のチャンネルは開いておくべきだろう。欧米諸国がそこで何をしたいのか理解できない」

と結構熱く語ってくれました。

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