安倍元首相の死で窮地に立つ岸田首相。難題ばかりで忍び寄る「反岸田」の足音

2022.07.19
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7月8日、奈良県で応援演説中に銃撃され、命を絶たれた安倍晋三元首相。通算8年8ヶ月の長きに渡り国を率いた実績、「外交の安倍」とも評されたその手腕に疑いの余地はありません。安倍氏の非業の死は岸田政権にどのような影響を与えるのでしょうか。政治ジャーナリストの清水克彦さんが難局を迎えることになる岸田政権の今後について考察していきます。

安倍元首相の死で窮地に陥る岸田首相

「自分で努力しない国に手を差し伸べてくれる国はどこにもない。日本とアメリカの間には強固な同盟関係があるが、自分では何もしない日本のために戦うことにアメリカ国民の理解を得ることができるだろうか」

7月6日午後、横浜駅西口での街頭演説で、安倍元首相が聴衆に語りかけた言葉である。奈良市の近鉄大和西大寺駅で銃撃され亡くなる2日前のことだ。

筆者は、葬儀が行われた増上寺で、在りし日の演説を思い起こしながら、その死去で最も打撃を受ける政治家は、岸田首相ではないか、と思うに至った。

安倍氏は積極財政派だ。筆者が最後に見た横浜駅西口の演説でも、アベノミクスの成果を振り返り、「円安であっても大胆な金融政策は続けるべきだ」と語ってみせた。

自民党保守派の要でもある安倍氏は、「防衛費は少なくとも現在の年間5兆4000億円規模から7兆円程度には引き上げるべき。その財源は国債で賄えばよい」との論陣を張り、この日も、「有事に戦えなければ抑止力とならず平和を守ることはできない」と述べて、憲法への自衛隊明記と防衛費のGDP比2%までの増額を繰り返し強調した。

これに対し、岸田首相は財政規律派である。防衛費の増額に関しても、「向こう5年間で段階的に」であり、「数字ありきではなく必要なものを精査したうえで」とする考え方だ。とても相容れない。

しかし、安倍氏の死は岸田首相にとってプラスには作用しない。

なぜなら、このところの自民党の政策は、経済であれ安全保障であれ、安倍氏がまず明確な旗を立て、その行き過ぎた部分を党内で調整し実行するという流れで実行されてきたからである。

批判の矢面にも立ってきた安倍氏を失ったことで、今後は、岸田首相自身が、直面する物価高対策や防衛費増額など重要課題で「このようにやる」と旗を立て、それに反応する党内勢力や国民と向き合わなければならなくなった。

安倍氏のような強硬姿勢を取らず、「聞く力」を強調して調整型を自認する岸田首相は、敵を作りにくい。国民感情を逆なですることがない分、支持率も安定していたが、自身で旗を立てなければいけなくなるとそうはいかない。党内の反対意見や国民の批判を岸田首相自身が全身で受け止めなければならなくなる。

岸田首相が直面する最初のハードルが「人事」

当面のハードルは、まず、9月初旬に行われるとみられる自民党役員人事と内閣改造だ。

安倍氏が健在であれば、「幹事長は茂木氏ではなく萩生田経済産業相ではないか」(自民党衆議院議員)、「高市政調会長も替えるのでは?」(同)との声もあった。

これは、安倍氏率いる清和政策研究会(以降、安倍派と表記)の幹部である萩生田氏を一本釣りすることで安倍派を分断し、安倍派に所属する松野官房長官、安倍氏の意図を汲む高市氏も外して「安倍氏からの独立宣言をするのでは」(同)と言われてきた。

内閣改造で言えば、参議院選挙に出馬せず勇退を決めている金子農水相と二之湯国家公安委員長は交替、健康不安説がささやかれてきた岸防衛相も降板というのが大方の見立てであった。

ところが、突然の訃報によって事態は大きく変わった。「早ければ8月初旬にも」が「9月初旬」になり、安倍氏が唱えてきた憲法改正や防衛力強化への真剣度を示すうえで、安倍派や保守派とされる高市氏らの処遇を無碍にはできなくなった。

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今、党内第4派閥の岸田派は、最大派閥の安倍派や第2派閥の茂木派などが揺らげば、急速に安定感を失う逆ピラミッド状態にある。それだけに、茂木氏や高市氏の扱いが最大の焦点となる。

同時に、安倍氏という会長を失った安倍派も、当面は、新会長を置かず、有力者7人による世話人会を設けて集団指導体制で派閥を運営する。党役員人事や内閣改造人事で派閥内に不満が高まれば、分裂含みの可能性もはらんでいる。

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