ペロシ訪台が、タイミングの点からみて最悪だったのは言うまでもない。まず共産党大会を秋に控えた時期だった。さらに3回目の首脳会談が終わった直後であり、建軍記念日とも重なったとなれば二重三重の屈辱だ。「習近平の面子を潰す」という意味ではこれ以上ないタイミングだったわけだ。
訪台が首脳会談直後だったことは習個人の面子と同時に中国共産党の危機感を強く刺激した。この前には元トランプ政権の閣僚から現役の議員まで、次々と台湾を訪れるという流れができていて、中国は「どこかで歯止めをかけなければ『一つの中国政策』が形骸化する」と焦りを募らせていたのだ。
実際、前回の会談(3月18日)から4カ月の間に「3人の米議会議員が訪台し3億2300万ドルの兵器を売却し、3度の米軍艦の台湾海峡の横断、6度の台湾に関わる法案の提出」があったと『環球ネット』(7月22日)は報じている。現役を除いてもマーク・エスパー前国防長官は、あろうことか「一つの中国政策」の変更の必要性に言及している。
つまりバイデン・習近平会談の前には、すでに米中には台湾をめぐる緊張があったということだ。だが首脳会談では「台湾を巡るエスカレートした発言をおおむね避けて通った」(ロイター通信 7月29日)ことで米中は一定の落ち着きを取り戻した。習近平が「火遊びをすれば火傷をする」と語ったと一部のメディアは過剰反応したが、これは実際、従来から何もエスカレートさせていない発言なのだ。
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年8月7日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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