バイデンは制御できず。ペロシ「訪台強行」に見える米国政治の混乱

shutterstock_559375555
 

ナンシー・ペロシ米下院議長が中国の警告を無視して台湾を訪問。中国はすぐさま台湾近海で連日軍事訓練を実施するなど、激しく反発しています。こうした事態を避けるための米中首脳会談だったはずが、なぜ訪台は強行されたのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で拓殖大学教授の富坂聰さんが、米国政治の混乱を指摘。さらに、米政権側の“火消し”も虚しく、中国のSNSで中国政府の弱腰への批判が噴出したことを取り上げ、これこそ中国共産党が最も恐れている圧力と解説しています。

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月無料で読む

ペロシ訪台で見えたのは米政治の混乱と民主主義の危うさだった

ナンシー・ペロシ米下院議長は、いったい何のために台湾を訪問したのだろうか。報じられているように「台湾海峡の安全のため」とか、それとも「民主主義を守るため」だろうか。そんな額面通り受け止めているのは、いまや日本人だけかもしれない。

バイデン政権はペロシ氏の強行に対し、明らかに慌てていた。出発前、ペロシ訪台を質問されたジョー・バイデン大統領(7月21日)は「軍は良いとは考えていない」と記者に答え、ロイド・オースティン国防長官もペロシと話し合っていると伝えられた。だがペロシは「大統領は『ネガティブだと答えた』と会見で質されても、それを無視。最終的にホワイトハウスは「(訪台を)決めるのは議長自身」とさじを投げた。

議会では足元の民主党が沈黙気味となるなか、逆にライバルの共和党がいち早く訪台支持をした。不思議な現象だが、これは中間選挙を前に空から降ってきた「敵失」に付け込む動きだとの見方もされている。もちろん超党派という美名の裏でのことだ。

このドタバタを英誌『エコノミスト』(8月2日)は、〈ペロシの訪台はバイデン政権の支離滅裂な戦略の露呈〉と報じている。現政権との齟齬を意識したペロシは、台湾訪問の有無を明言しない戦略に切り替えアジアへと出発した。この行動が習近平政権の猜疑心を刺激したことは言うまでもない。そして警戒心をむき出しにした中国の反応が、メディアの報道を過熱させた。

ペロシ訪台は「アメリカが中国の圧力に屈するか否か」のリトマス試験紙と化し、海峡を舞台に繰り広げられるチキンレースの様相を呈していったのだ。

今回、米中が緊張感を高めた背景には両国関係の基盤が脆弱であったことが挙げられるが、それに加えて問題を見る視点のズレが大きく響いたはずだ。バイデン政権からすれば中国への最低限の配慮はしたというのが言い分だ。米紙『ブルームバーグ』(8月4日)が記事〈訪台計画見直さないペロシに米当局者は激怒、説得に応じずと関係者〉で報じたように、水面下では訪台阻止に動き、それに応じないペロシに不快感を示していたからだ。

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月無料で読む

print
いま読まれてます

  • バイデンは制御できず。ペロシ「訪台強行」に見える米国政治の混乱
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け