認知機能検査は、今は何日で何時何分という問題と、時刻を時計の文字盤に書き込む問題さえクリアーすれば38点取れ、それに加えて、16種類のイラストのうち6問正解すれば、49点取れるので、これ以下の人は認知機能が落ちていることは確かだろう。しかし、運転は、基本的に近過去の状況ではなく、現在の状況を把握していればOKで、こういった直前に見せられたイラストを覚えておく認知機能検査の成績が悪くとも、事故を起こし易いとは限らない。
かつて、性染色体がXYYの男性は犯罪を起こしやすいとされ、予防拘束の対象とされたが、例えXYYの男性が犯罪を起こす確率が統計的に高かったとしても、予防拘束することが許されないのは言うまでもない。同じように、認知症と医者が勝手に判断した人から、運転免許証を剥奪するのは基本的人権の侵害である。別言すれば、事故を起こしてもいないのに、免許を剥奪するのは、予防拘束と同じようなものなのである。
犯罪を起こした人を刑務所に収容したり、自己責任の重大な交通事故を繰り返し起こした人から運転免許を剥奪するのは理にかなっているが、犯罪を起こしそうだという理由で予防拘束したり、事故を起こしそうだという理由で運転免許を剥奪したりするのは、正義とは言い難い。
認知症でなくとも、煽り運転をしたり、重大事故を繰り返し起こしたりしている人はいるわけで、こういう人から免許を剥奪する方が認知症の人から免許を剥奪するよりずっと効果的だ。私の知り合いは、アルツハイマー病だと医者に診断されて、暫くたってから正常に戻って、それから20年以上呆けないで生きた。医者の診断はかなり怪しいのだ。それに比べ、交通事故の原因は比較的はっきりしている。例えば5年の間に重大事故の第一当事者に3回なった人は免許剥奪と決めておけば、認知機能検査とか高齢者講習とか余計なことをしなくとも、重大事故はかなり減るだろうと思う。
まあ、高齢者いじめのシステムは利権のためにやっているに違いないので、私がぶつぶつ言ってもなくならないだろうけれどね。時に私の認知機能検査の点数は90点で、まあ普通だった。去年亡くなった義理の兄は100点だったそうで、私はすごい人がいるとびっくりしたが、暫くして運転は向いていないので、もうやめると言って免許を自主返納してしまった。認知機能が抜群でも運転に向いているとは限らないってことだ。(『池田清彦のやせ我慢日記』2022年8月12日号より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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