終戦時と同じ。コロナ禍と地方衰退に襲われる「統治の空白」ニッポン

 

3つ目は、少し異なる問題ですが、国と地方の関係です。地方の経済衰退が著しい中で、政府は一体この国をどのような形に持って行きたいのが見えないのです。

例えば、小泉政権がやった「三位一体の改革」というのがあります。各地方に多くの経費を移管し、その分は所得税から税収を地方税に移譲するというものです。つまり、地方が貧しくなったら教育も、福祉サービスも同じように貧しくなるわけで、地方はそれが嫌なら自助努力せよということなのだと思います。

この「三位一体」をやって、そろそろ20年になりますが、その結果として、まず国全体が貧しくなり、地方もどんどん貧しくなっているわけです。ですから、教育についても福祉についても、かなり悲惨なことになっているわけです。

では、東京はどうかというと、相変わらず日本語と紙と対面に縛られた仕事が残っており、DXには十分なコストが行かず、少ない中から「中抜き」されるなど、一向に生産性は上がっていません。つまり、地方に「自助努力」を求めれば、経済が少し強くなるというどころか、東京の生産性も落ちる一方であるわけです。

そんな中で、地方ではコンパクトシティもできないし、人口減の中で地銀の延命もかなり難しいことになっています。ファスト経済という、大型のスーパーなど全国チェーンによる地方の地場経済潰しが批判されましたが、現在はその全国チェーンが儲からないところからは逃亡を始めているわけで、フェーズは新しい段階に入りました。

そうした全国の状況を、一体この政府はどうしたいのか、現在の論議からは全く見えて来ないのです。これも統治の空白の一種と言えます。この地方の問題に関しては、特に心配なのが交通機関の問題です。

大規模な架橋や、新幹線を誘致しても、結局は「ストロー効果」で経済も人口も流出してしまう問題がまずあります。次いで、多くの地方が「鉄道の次は、高規格道路(料金支払いが嫌なので高速道路ではなく)が欲しい、同時にジェット空港も」という要望をしたわけです。

その結果として「鉄道」「高規格道路」「ジェット空港」の3点が整備されます。ですが、同時に人口は減る一方ですから、やがて鉄道は線路を剥がすという話になります。では、道路があるからいいのかというと、バスも採算が取れなくなり、トラック輸送網は「運転手不足+排出ガス問題」で行き詰まることになります。空港も、人口減になれば定期便は減ります。

その一方で、自民党などは「参議院の合区には反対」などと言って地方を重視するようなことを言っていますし、可能な限りはバラマキをやっていますが、グランドデザインとして「全体が持続する仕組み」というのは全く見えません。

こうした平時における、当たり前のそして中長期的視点からは大変に重要な問題において、政府が政府としての最低限の方針が描けていないというのも、権力の空白、統治の空白ということだと思います。

8月15日というタイミングから、戦争終結時における統治の空白を考え、更に現在の政策論における統治の空白についても考えてみました。

この2つは、とりあえずは別の問題です。ですが、政治が、あるいは統治とか行政という問題は、国民と国家を守るるためには、「問題解決から逃げる」ことは一切許されない性格のものであること、この点は共通であると思います。

1945年の内閣、そして陸海軍は国民と国土を守ることができませんでした。そして、77年後の政府もまた、戦前から続くエリート集団である官僚機構を擁していながら、一度は復興と経済成長に成功したものの、今は、多くの問題が解決できずに統治の空白を生じています。

この状態をどうやって乗り越えていくのか、皆さま方の闊達なご議論をお待ちしています。

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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